« NHKスペシャル「学校って何ですか」を見て | Main | 学校はアレもコレもやりません »

April 09, 2007

シンゾー・アベのダブルトーク

 ワシントンポスト紙は、3月24日の紙面にて"Shinzo Abe's Double Talk"と題する社説を掲載した。Double Talkとは、この場合はやはり「二枚舌」という意味になるだろう。日本国の総理は二枚舌なのだと、ワシントンポストは言っているのである。なにが、二枚舌だと言っているのか。

He's passionate about Japanese victims of North Korea -- and blind to Japan's own war crimes.

「彼(シンゾー・アベ)は、北朝鮮による日本人拉致被害者に対しては熱心に取り組みむが、日本自身が犯した戦争犯罪には目をつぶっている。」

Mr. Abe has a right to complain about Pyongyang's stonewalling. What's odd -- and offensive -- is his parallel campaign to roll back Japan's acceptance of responsibility for the abduction, rape and sexual enslavement of tens of thousands of women during World War II. Responding to a pending resolution in the U.S. Congress calling for an official apology, Mr. Abe has twice this month issued statements claiming there is no documentation proving that the Japanese military participated in abducting the women. A written statement endorsed by his cabinet last week weakened a 1993 government declaration that acknowledged Japan's brutal treatment of the so-called comfort women.

「ミスターアベは、(6カ国協議での)北朝鮮の議事妨害行為に対して不満を言う権利はある。しかし、何が奇妙で不快かと言えば、第2次世界大戦中に数万人の女性を拉致し、レイプし、性的奴隷としたことへの日本の責任を軽くしようとする彼の並列したやり方である。日本政府からの公式謝罪を求めるアメリカ議会の決議案に応じて、ミスターアベは今月、二回、日本軍が女性を誘拐に関与したことを立証する公式文書は全くないと主張する声明を発表した。先週、彼の内閣によって支持された文書は、いわゆる従軍慰安婦についての日本の残忍な扱い認めた1993年の政府宣言を弱めた。」

 ようするに、公式書類がないから軍の関与はなかったというのはおかしいだろう、とワシントンポスト紙は言っているのである。

 この問題は、二重、三重にねじれていて、ややこしい。

 ここで強調しておきたいことは、現在の北朝鮮の問題と、過去半世紀以上も前の、しかも、この地球上にはもはや存在すらしていない過去の国が犯したという犯罪行為とを同列に扱うことはできないということだ。その意味で、北朝鮮の言っていることが正しいとは、世界の人々は誰も思ってはいないであろう。思ってはいないが、日本国政府の言う、「従軍慰安婦」なるものへの強制連行は行っておりません。なぜならば、そうした記録はありませんから、以上、オワリ。という発言で、アアソウナノカと納得する国も世界のどこにもないであろう。ましてや、日本と朝鮮という、遡れば二千年ぐらい前から続いているイザコザの関係がある背景の中で、こうした発言をするこの国の指導者の感覚とはいかなるものであるのかと思う。

 日本軍によるいわゆる「従軍慰安婦」なるものについて、そもそも、軍の強制があったのか、ないのか、という問いかけそのものが意味がない。なぜならば、軍の強制があったからどうこう、なかったからどうこうということではないからである。

 軍による強制があろうが、なかろうが、公娼制度はあった。民間業者が兵隊さん相手の慰安所を設けて、商売をしていた。さらに、この当時の日本は、中国・朝鮮を劣等国として扱い、蔑視していた。それらのことは、あの時代では当たり前の当然のことであった。だからこそ、根が深い。これを軍による強制があったから虐待行為はあった、なかったから虐待行為はなかったというのは問題のすり替えであろう。

 しかしながら、軍が率先して「慰安婦」を性的奴隷にしたり、人身売買に関わったというのであるのならば、それは間違いだ。この「軍が率先して」というのは、より具体的に言うと、陸軍省や参謀本部からの通達命令として、ということである。いわば、日本国の国家意志として、そうしたことを行ったのかというと、それはない。むしろ軍は、女衒業者のそうした行為を取り締まってきたのである。もちろん、軍人にも、いろいろな人がいた。このへんをあえて言えば、軍による強制連行はあったのか、なかったのか、と言えば、なかった。これをもって、今の日本国政府に謝罪を要求するのならば、それはお門違いであって、理不尽な要求と言わざる得ない。

 ただし、軍による強制連行はなくても、結果的に強制連行になることはあったであろう。官憲が個人的に関与していたこともあったであろう。大日本帝国軍による「慰安婦」の性的奴隷化や人身売買はない。しかし、当時の日本には、(外地であるアジア諸国での女性たちだけではなく、そもそも内地の同じ日本女性に対して、でも)悪質な女衒や公娼業者はいたし、そうした業者による人身売買が行われていた。何度も書くが、だからこそ、この問題の根は深い。ようするに、アジア近隣諸国の女性たちに対してどうこうという以前に、今日の感覚から見れば、当時の日本は、今の北朝鮮のように、人権意識がゼロに近い国だったのである。

 しかし、今の日本はそうした国ではない。ではなぜ、軍による強制連行はありませんという主張が、ワシントンポスト紙から、シンゾー・アベは二枚舌だと書かれるのであろうか。問題なのは、外国から見た時、「戦後の日本は、戦前の非を認めようとしない」と「見える」ということである。シンゾー・アベの、日本政府は「従軍慰安婦」への強制連行の事実はない、なぜならば、そのような公式な証拠はないからである、という論法は、現在の北朝鮮が言う日本人拉致はない、なぜならば、そのような公式な証拠はないからであるという論法と(論法という意味においては)同じになるとワシントンポスト紙は言ってるのであろう。

 朝鮮側から見れば、悪質女衒業者であろうと、悪徳官憲であろうと、イルボン(日本)は、イルボンである。いや、イルボンサラム(日本人)にもいろいろあって、全部イルボンでひとくくりにするなと言っても、外国から見れば、イルボンでひとくくりにしてしまうものだ。そして、今の日本政府が「公式資料はない」とか、「謝罪や保証はすでに済んでいる」とか言うと、「どーもイルボンには、過去の反省がまったくないのではないか」と思われてしまうのである。しかし、イルボン側としては、国家の政策としてやったわけではないと言っているだけで、日本が犯罪的な行為を行ったことは、ただの一度もないと思っているわけではない。

 つまり、お互いの真意が伝わっていない。そもそも、今の日本と朝鮮の間に、民族的な信頼関係がないのだ。大日本帝国の植民地支配が終わって、まだ半世紀程度しかたっていないので、信頼関係ができるはずもないと言えば、確かにそうなのであるが。信頼がない関係に、真意が伝わることはない。

 戦争には、民族の感情が伴う。戦争の記憶を通してしか、今の日本と朝鮮には接点はないというのならば、日本と朝鮮は、永遠に理解しあうことなどできないであろう。

|

« NHKスペシャル「学校って何ですか」を見て | Main | 学校はアレもコレもやりません »

「経済・政治・国際」カテゴリの記事

Comments

TBができないので、以下のリンクを。

日本人の歴史認識に問題提起

日本のあり方について議論が盛んな昨今ですが、近代自由主義国家たる日本が全く理解されずに大言壮語が流行するのは嘆かわしいです。

ゴアの記事はかなり論争になるかと思いましたが、真魚さん、忙しくてスパムも削除するゆとりがなかったようで。

Posted by: 舎 亜歴 | April 15, 2007 at 11:10 PM

舎さん、

BBCが行った世界の安全保障に悪影響を及ぼしている国に関する調査の結果で上位3国がイスラエル、イラン、アメリカですよー。
これについてカーター政権の大統領補佐官のブレジンスキーが、この3国を「新たなる悪の枢軸」と呼んでいますよー。
http://www.sais-jhu.edu/

いやあ、ショッカーはやっぱりブッシュとチェイニーだったんですねえ。
ブレジンスキーもわかっているようです。

中国についてTBを送っておきました。

Posted by: 真魚 | April 16, 2007 at 01:10 AM

今のBBCはThe Battle of Britainを支えた栄光のBBCではありません。フォークランド戦争では時のサッチャー首相から「反英報道」を批判されました。湾岸戦争でもイラク戦争でも、このように時には敵方に配慮するような報道をしています。

本来はイギリス、もっと広くは自由世界の勝利への貢献を目的に設立された報道機関が最近では敵に配慮するとは嘆かわしいです。余りBBCのブランドを過信しない方が良いのでは?英語の質なら信頼できますが。

今のイラク戦争と対テロ戦争の元凶はイラン革命です。それを防げなかったのはカーター政権の失態です。ブレジンスキーは優秀な学者ですが、そのカーター政権の国家安全保障担当補佐官でした。これも過大な信頼は禁物では?

真魚さん、ブッシュとチェイニーがショッカー?私はクリントンにもゴアにももっと寛大ですが。

Posted by: 舎 亜歴 | April 17, 2007 at 03:31 AM

Post a comment



(Not displayed with comment.)


Comments are moderated, and will not appear on this weblog until the author has approved them.



TrackBack

TrackBack URL for this entry:
http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/36163/14616039

Listed below are links to weblogs that reference シンゾー・アベのダブルトーク:

« NHKスペシャル「学校って何ですか」を見て | Main | 学校はアレもコレもやりません »