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December 18, 2006

ブッシュ時代の終わり その1

 今更言うまでもないことであるが、先月11月にアメリカで中間選挙が行われ民主党の圧勝であった。ただし、このことは保守主義の終わりを意味しているわけではない。この選挙は、つまり「ブッシュはいやだ」という有権者の声であって、「共和党がいやだ」とか「民主党の方がいい」という声が多いことを表しているわけではない。

 もともと、意味のある対立軸を出していた民主党と共和党という二大政党システムであるが、これがうまく機能していない。ここで、保守主義とは一体なんであるのか、ということについて考えてみたい。

 高度に発展した社会では福祉にかかる費用が厖大なものになるが、その厖大な費用をまかなえる経済力がない。そのため、どうしても福祉にかける費用を抑える必要が出てくるということである。保守主義の基本的考え方は「税金を下げよ、政府は小さいものでいい」というものであり、1994年の中間選挙でニュート・ギングリッチらが「アメリカとの契約」という保守的な選挙公約を掲げて歴史的な勝利を収めて上院と下院の過半数を制した。以後、保守主義の時代が始まり、2000年の大統領選挙でジョージ・W・ブッシュが大統領になる。

 今年、2006年の中間選挙では、これがひっくり返ったことになる。しかし、冒頭でも述べたように、これは「ブッシュはいやだ」という声の反映であって、共和党が掲げた「アメリカとの契約」が間違っていたというわけではない。むしろ、ブッシュが「アメリカとの契約」の理念を着実に実行していく指導者であったのならば、保守主義と共和党の未来は盤石たるものになったであろう。

 ようは、そうはならなかったということだ。なぜ、そうはならなかったのか。ここに、政治は一筋縄ではいかないものだということがある。ブッシュ政権をそうさせなかったものがある。それが、ブッシュ政権のもうひとつの柱ともいうべきネオコンの存在である。

 米ソ冷戦がおわって、アメリカが唯一の超軍事大国になった時、その世界最強の軍事力をもってアメリカン・イデオロギーを世界に広げようとする思想グループが「軟弱」(であるように彼らには見えた)な民主党から「強靱」(であるように彼らには見えた)な共和党に鞍替えした。そして、保守主義が台頭することは、右派の勢力が拡張することも招いてしまった。ネオコンと共和党右派、キリスト教右派がつながり、ブッシュ政権内部で大きな力になってしまったのである。

 おもしろいことに(「おもしろい」と言っていいのか、よくわからんけど)保守主義本流のイデオローグ的存在であるシンクタンクにヘリテージ財団がある。ギングリッチの「アメリカとの契約」を草案したところである。ここはレーガン・ドクトリンの立案組織であり、レーガン政権のブレーンであった。ヘリテージ財団の主張は、当然のことながら、反共であり、共産主義に対して「封じ込める」のではなく、徹底的に叩いて壊滅させることを目的とした外交政策であるべきというものである。レーガンはその通りの外交政策を行い、結果としてソビエトは崩壊した。

 ここで、このように敵に対して圧倒的優位に立ち、相手を殲滅させるような外交でなくてはならない、それが「強い」アメリカである、という考え方が生まれ、定着してしまったのではないかと思う。これが大きな間違いであった。これと同じ方法で、イスラムに対しても行うべきである、それが「強い」アメリカなのだと考えたのが、ネオコンの牙城とも言うべきアメリカンエンタープライズ研究所である。保守主義者たちにとって、レーガンがソ連を崩壊させ、米ソ冷戦をアメリカの勝利で終わらせたということが輝ける歴史的偉業になっている。レーガンが悪の帝国ソ連を倒したように、我々は悪の枢軸国を倒さなくてはならないということである。しかし、実際のところ、レーガンの強硬的な対ソ外交政策がソビエトの崩壊を導いたわけではない。

 さらに、ソ連崩壊後、アメリカが世界最強の軍事国家になったということも、この間違った考え方を定着させる要因になった。つまりは、強い態度に出ればいいんだ、強い態度の外交でなくてはならないみたいな考え方が主流になってしまった。9/11の衝撃の以後、この21世紀のgunboat diplomacyの考え方が、ブッシュ政権をイラク戦争の泥沼に引き込み、本来めざすべき「アメリカとの契約」の理念から遠く離れてしまった。(ブッシュ政権をイラク戦争に引きずり込んだグループの筆頭がチェイニーだったことを思うと、ブッシュはむしろギングリッチを副大統領にして内政重視の保守主義の政策を行う政権になればよかったのではないかと思うが、チェイニーやラムズフェルドなくして、ブッシュ政権誕生はなかったので、それはまったくの空想である。)

 これが、今回の中間選挙での共和党敗退の原因のひとつであると思う。

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Comments

真魚さん、

<<1994年の中間選挙でニュート・ギングリッチらが「アメリカとの契約」という保守的な選挙公約を掲げて歴史的な勝利を収めて上院と下院の過半数を制した。以後、保守主義の時代が始まり、

え??保守の時代は1980年レーガン大統領の当選ではじまりましたよ。 上院で共和党が過半数をとったのも1981年からですからね。(それ以前は1955年!!)

http://en.wikipedia.org/wiki/United_States_Senate_Majority_Leader

きちんと歴史を確かめてくださいね。リベラルの歴史っておかしい情報が多いから… カーター元大統領を含めて。

MikeRossTky

Posted by: マイク | December 22, 2006 at 09:16 PM

Mike,

ほほう、レーガンが何を行ったというのでしょうか?Reaganomicsにより連邦政府は巨大な財政赤字を抱え、官僚政治が肥大化したことは常識ですが。レーガンを保守主義の時代の始まりにしていいのですか?

カーターの業績は世界が認めています。
"for his decades of untiring effort to find peaceful solutions to international conflicts, to advance democracy and human rights, and to promote economic and social development"
The Nobel Peace Prize 2002
Jimmy Carter USA
http://nobelprize.org/nobel_prizes/peace/laureates/2002/index.html


Posted by: 真魚 | December 23, 2006 at 12:10 AM

真魚さん、

それにしては中間選挙の直後に対インド核協定があっさり通過しました。民主党から保守主義に代わる魅力ある政策が出ないと、いくらブッシュ嫌いでもそれを喜んではいられないと思いますが。

Posted by: 舎 亜歴 | December 23, 2006 at 01:05 AM

真魚さん、

ノーベル賞ってPLOのアラファト議長ももらった賞ですよね。300億円以上の財産をもって亡くなったパレスチナのリーダー。リベラルのアイコンですよね。

カーター氏が大統領の時にどの様な成果を残しましたか?インフレは?イランの人質は?アメリカ軍は?民主党が1955年から維持してきた上院をなくしたのは?アメリカ南部から最後のリベラルですよね。

確かに奉仕事業ではすばらしい結果を残して、その偉業はノーベル平和賞や他の賞に価することかと思います。しかし、独裁者愛、嘘に基づく歴史書、アンチアメリカ発言などネガティブなところはネガティブで判断をしないと。

官僚の肥大化?最高税率を78%から40%以下に。小さな政府のアイディアを浸透させる。保守のアイディアをアメリカ国民に説明したのはリーガンです。フォード・カーターと最悪な大統領が残した結果を短期間で直し、アメリカにプライドをもどした偉大な大統領がリーガンです。

リーガン大統領はワシントン、リンカーン、JFKと同じレベルで愛されている大統領となりました。

どの政権にも問題はあります。民主党が下院をコントロールする限り、政府は肥大しました。1994年それが変わりました。しかし、2000年以降の共和党下院は失態を繰り返し、今回の選挙で敗退です。保守思想をきちんと政治に組み込めていれば… メディアとリベラルへの懸念がこの結果を。

MikeRossTky

Posted by: マイク | December 23, 2006 at 10:59 AM

舎さん、

いえいえ、例えば、クリントンが大統領に選ばれたのは、クリントンの言っていることがブッシュ・シニアより優れていると有権者が判断したわけではありません。クリントンの「ニューデモクラット」は共和党の政策をかなり取り込んでいます。政策の違いというよりも、むしろ「ブッシュはいやだ」「景気が悪いのはブッシュのせい」ということで、クリントンに票を入れた有権者は多かったです。このままで行くと、大統領選挙では共和党はよっぽど、ジョージ・W・ブッシュがやったこととは違うということを伝えないと民主党に票が流れると思います。問題なのは、それがアメリカにとって良いことなのかということです。

Posted by: 真魚 | December 24, 2006 at 11:39 PM

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