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September 17, 2006

アメリカは「普通の国」日本を歓迎する

 日本の次の総理は、安倍晋三でほぼ決まりになっている。海外メディアの見方では、Shinzo Abeは改憲論者のタカ派である。つまり、これから世界は、日本は改憲して軍事力を増強させていくのではないかという見方をしているのであるが、それを期待を持って見るか、警戒感を持って見るか、その政治的立場によって異なる。

 8月27日付のワシントンポストでジョージ・F・ウィルという保守派言論人が"Unbind Japan's Military"という寄稿文を書いている。このessayは、日本でもネットの一部で紹介されているが、ここで改めて考えてみたい。先日、「武装中立」で書いたように、アメリカの意図は日本の憲法9条改正と再軍備である。このessayでも日本がいわゆる「普通の国」になることが、アメリカの利益にもなることであることが明確に書かれている。

 タイトルの「Unbind Japan's Military」とは、「日本の軍事力を解放する」という意味である。ウィルはこう書いている。以下は原文の抜粋とその意訳である。

"Ever since Commodore Perry's black ships entered the harbor here in 1853, the Japanese have wondered whether their nation could modernize without becoming thoroughly westernized. Today they wonder whether their nation can provide for their defense and play a proper role in the international security system without jettisoning a national identity imposed in 1947 by the nation that had sent the black ships."

1853年、ペリー提督の黒船がやってきて以来、日本人は西洋化することなく近代化ができないものか模索し続けてきた。今日、彼らは、黒船を送った国が1947年(日本国憲法施行)に与えたナショナル・アイデンティティを捨て去ることなしに、国家を防衛し、国際安全保障において適切な役割を担えるかどうか模索している。

The first was the 1991 Persian Gulf War. Japan hoped that the end of the Cold War would radically diminish the importance of military power as an ingredient of a nation's international weight. But as America formed a vast coalition to expel Iraq from Kuwait, Japan was constitutionally restricted to "checkbook diplomacy" -- helping to pay for the war.

最初のきっかけは、1991年の湾岸戦争であった。日本は、冷戦の終わりが、国際的地位の内容としての軍事力の重要性が急速に少なくなるものと望んでいた。しかし、クエートからイラクを追い出すために、アメリカが広く同盟国を形成した時、日本は憲法の制約から、戦争にお金のみを出す「小切手外交」しかできなかった。

Then, in 1998, North Korea launched a Taepodong ICBM over Japan's main island, Honshu.

そして、1998年、北朝鮮が日本の本州に向けてテポドンICBMを発射した。

Since then, revision of Article 9 has become probable: A majority of the governing Liberal Democratic Party favors revision, and Shinzo Abe almost certainly will become prime minister when Junichiro Koizumi retires in September. Abe, 51, who represents a generation interested in a more assertive international posture for Japan, has said, for example, that if "there is no other option to prevent" a North Korean attack, a Japanese attack on North Korea's missile launch sites is "within the constitutional right of self-defense." But he clearly believes that even with imaginative construing, the elasticity of Article 9 is insufficient to permit Japan to play a proper role regionally and elsewhere.

それ以来、憲法9条の改正が論議の的になっている。政府の与党である自民党は憲法改正をしようとしている。そして、安倍晋三は9月に小泉純一郎総理の退陣の後を受け継ぐものとほぼ確定している。日本のよりいっそうの国際な態度を押し進めようとする世代の代表である51歳の安倍は、例えば、もし、北朝鮮からの攻撃を防ぐ他の選択がないならば、北朝鮮のミサイル発射場への日本の攻撃は憲法の自衛権に含まれるものであると語っている。しかし、憲法9条の拡大解釈をもってしても、それでも日本の役割を果たすことには不十分であると彼は確信している。

Last month North Korea, which has many medium-range missiles that can strike Japan, launched seven missiles into the Sea of Japan. The 800 Chinese missiles targeting Taiwan could also strike Japan, which in 2005 joined the United States in saying that a peaceful resolution of the Taiwan dispute is a crucial security interest. In June of this year, Japan agreed to jointly produce anti-missile defenses with the United States. Some will be deployed on five Aegis destroyers belonging to Japan's highly sophisticated navy and assisted by Japan's spy satellites.

先月、日本に到達可能な中距離弾道ミサイルを持っている北朝鮮が、日本海に7発のミサイルを発射した。台湾に標的としている800発の中国のミサイルも、同様に日本に到達可能である。2005年、日本はアメリカと共に、台湾問題の平和的解決はアジアの安全保障にとって不可欠であると述べた。今年の6月、日本は、アメリカの対ミサイル防衛に参加することに同意した。いくつかは、日本の高度で優秀な海軍に属する5隻のイージス艦に配備され、そして、日本のスパイ衛星がこれを支援する。

All this while Article 9 says that sea and other forces shall never be "maintained." The Self-Defense Forces are maintained by a $45 billion defense budget, the world's fourth-largest.

これらはすべて、憲法9条が、海軍や他の軍事力を「保持」しないと述べている中で行われている。自衛隊は450億ドルの防衛費によって維持されている。これは世界で4番目に高い国防費である。

This matters to Americans because East Asia -- its share of global gross domestic product now more than 20 percent, is projected to be 27 percent by 2020 -- matters. And because rising China and demented North Korea complicate regional security. And because the list of economically formidable nations that are without virulent anti-Americanism and are eager to collaborate with America is short. The list is: Japan.

これはアメリカにとっても重要である。なぜなら、現在、グローバルGDPの20%以上を占め、2020年には27%になると思われる東アジアが重要だからだ。そして、中国の台頭と錯乱の北朝鮮がアジアの安全保障を混乱させているからだ。さらに、悪意に満ちた反米感情がなくて、そしてアメリカと協力することを熱心に望んでいる経済的に協力な国は少ないからだ。そうした国は、アジアでは日本以外にはない。


 以上、こんなところであるが、最後の"The list is: Japan."とワシントンポスト誌上で言われてしまうと(しかも、この執筆者は米政界の保守派言論人の大物である)、かくもアメリカは日本を信頼してくれているのかと日本の親米保守派の方々は感動するであろう。このように、日本に安倍晋三政権が誕生し、日本が軍事的に「普通の国」になることは、アメリカの保守派にとっても大いに歓迎すべきことなのである。

 しかし、リベラルはそうした見方をしていない。彼らは、日本の再軍備を危険視する見方をしている。例えば、ニューヨーク・タイムズのOnishi記者は安倍晋三政権について"Japan's Likely Next Premier in Hawkish Stand"(「ほぼ決まっている日本の次の首相はタカ派」)というタイトルの記事を書いている(Sept 2)。Shinzo Abeはthe nationalist politician(ナショナリストの政治家)であり、アメリカが押しつけた平和主義憲法改正すべきだと言う。そして"Mr. Abe has said strengthening Japan's alliance with the United States will, more than anything else, guarantee Japan's prosperity. ''The Japan-U.S. alliance is the most important thing for our country's diplomacy and national security,'' he said Friday."(安倍氏が主張する他のどの国よりも日米関係をより強固することは、日本の繁栄を保証するであろう。「日米関係は日本の外交と安全保障において最も重要なものである」と安倍氏は述べた。)と書いている。

 次の大統領選挙で民主党に政権が移れば、アメリカの対日政策は変わるであろう。ただし、リベラルで日本に関心を持つ者はそれほど多くない。今のアメリカで、日本研究を専門にしている者は、よほど奇特な人であろう。その意味で、日本の憲法改正に反対をする大きな政治勢力はまずないと思ってよいと思う。従って、アメリカの次の政権が民主党になろうとも、日本の憲法改正を求める動きはほとんど変わらないものと思われる。ただし、民主党政権になった場合は、日本の軍事よりも社会や経済の「改良」を優先するのではないかと思う。すわなち、どちらであろうとも、安倍政権になってアメリカの対日管理はさらに(さらにだ)進展するということである。また、当然のことながら、日本の周辺国、中国、韓国、ロシアは日本に対して、さらに警戒心を持つだろう。

 このように、バブル経済崩壊後あたりから日本国内で表面化してきた保守的な動きは、あたかも日本独自の自主独立を志向しているようで、実はアメリカの保守の思惑にしっかりと組み込まれていたものなのだ。よく考えてみれば、「親米」+「保守」=「親米保守」というのは、戦後の吉田茂以来の自民党のイデオロギーであった。戦後半世紀以上、日本は親米保守路線の下で豊かな社会になったと言えよう。アメリカに従属しているとしても、結果がOKならいいじゃん、というわけである。アメリカ側も、日本の国民に反米感情が高まるようなことは極力避けている。つまり、日米間は(その実質的内容は不均衡ではあるが)安定して維持し続けてきたのである。従って、日米関係を維持するためにも、憲法9条は改正されなくてはならないということになる。これが日米関係から見た、安倍次期政権が憲法改正を行う背景である。

 しかしながら、「普通の国」なろうが、軍事が解放されようが、戦場に行くのは日本の若者である。このことについては、アメリカの保守派も日本の親米保守も語ることがない。

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Comments

あの内容はジョージ・ウィルという有名コラムニストが書いたというだけで、すでにアーミテージ・レポートをはじめ、似たような論文は出回っています。ごく当然のことを書いたまでとしか言えません。

ただし
>1853年、ペリー提督の黒船がやってきて以来、日本人は西洋化することなく近代化ができないものか模索し続けてきた。

ウィルのこの意見には反論ありです。政治的に今日の日本を作った出来事は以下の二つというのが私の見解です。

第一にアヘン戦争による西欧文明の衝撃を理解し、そのうえで行なわれた「脱亜入欧」です。これによって、それまでも儒教文明圏と一線を画してきた日本は、これによって周辺アジア諸国とは全く別の存在になりました。

第二は言うまでもなく、第二次大戦後のレジーム・チェンジです。

最後に大西哲光をもってリベラルの代表とするのは疑問の余地があります。彼の議論はまるで中国系か韓国系かと思われるほどで、いくらリベラルでもアジアと何の縁もないアメリカ人があのように考えるかは多いに疑問があります。

ところで「ユナイティッド93」には私もコメントしたんですけど~。マイクさんとの激論ですっかり忘れていませんか?

Posted by: 舎 亜歴 | September 22, 2006 at 09:08 PM

舎さん、

アーミテージもナイもああしたレポートを書いていますが、それらは日本について専門にカバーしている政府機関担当者か記者か研究者ぐらいしか知りません。ワシントンポストを読む一般購読者が日本の新総理について知るとともに、その政策内容は親米保守であることを知ることにあの記事の役割があります。

ウィルの書く「日本人は西洋化することなく近代化ができないものか模索し続けてきた」について言えば、明治の言葉で「和魂洋才」という言葉があります。通常、この時代のアジアでは、ベトナムやインドなどもそうですが、西洋文明と出会うと、その後、特権階級が完全に西洋文化の生活様式になり、子弟をケンブリッジやパリの大学に学ばせて、一般庶民は何も変わらない貧困であるままの二重化した社会構造になります。植民地とはそうしたものなのです。しかし、日本はそうなりませんでした。植民地ではなかったからこそ、「脱亜入欧」でしたが、その実体は「和魂洋才」であったのです。その意味で、日本は「周辺アジア諸国とは全く別の存在」だったのです。ウィルは、このことを言っているのだと思います。まあ、彼はそこまでわかっているのかは疑問ですが。洋服を着て、洋食を食べるようになっても、西洋人の目から見ると、日本人は異質な連中に見えたんでしょう。

太平洋戦争後の占領政策については、ご指摘の通りウィルにはその言及はありません。しかし、このへんについては、これに触れると、すなわち戦前は(英米の視点から見れば)日本はナチスドイツと並ぶファシズムの全体主義国家だったということがつながるからだと思います。つまり、保守は日本の戦前がどうだったということにはあまり触れたくないのだと思います。そのかわり、原爆投下や東京裁判の是非についても考えたくないというわけです。

NYT東京支局長のOnishi記者については、私もその記事の内容に同意できない点がよくあります。ワシントンポストのことを書いたので、NYTのことを書いたまでです。まあ、あの人も幼少の時にカナダに移住して、故国日本と日本人についていろいろな思いがあるのでしょう。


Posted by: 真魚 | September 23, 2006 at 03:17 AM

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