平日は仕事があって、満足に新聞や雑誌が読めない反動からか、休日は午前中からTIMEやらNewsweekやらノートパソコンやらをバックに詰めて、神田神保町のカフェーに行って、日なが一日ぼおーとしているわけであるが、このへん思えば、遠い昔の大学生の頃からそうだったわけで、ニューヨークやバークレーにいてもこうだったし。学生時代の習慣は、その後も消えないものなのだなと思う今日このごろ、みなさん、いかがお過ごしですか、というのは某有名ブログの書き出しのマネ。
というわけで、土曜日のInternational Herald Tribuneをつらつら読んでいたら、Editorialsに"What we expect from St. Petersburg"というコラムがあった。あーG8はロシアでやるんだったなと思い、どれどれと目を通してみると、署名にVladimir Putinと書いてある。えー、どっかで見た名前だなと思ったらロシア大統領のプーチンではないか。G8を前にして、ロシアの大統領が英語圏の国際新聞に英語でコラムを書いて出しているのである。
でまあ、読んでみると、ロシアは世界経済への資源・エネルギーの提供国になるとか、新しい知識の創造と応用が経済の発展にとって決定的なことなので教育は重要だとか、世界の平和と安定を維持し、アフリカ諸国の貧困をなくすためにロシアはイランの核問題について、アメリカの共同で対処したいとか、とりあえず、一通りのことを書いている。逆から言えば、地球温暖化とかについては一言も触れていない。また、国境を隣接する中国とインドについてさほど触れていない。
ロシアは、元ソビエトだった国である。今でも、アジアと国際社会に影響を持つ国である。プーチンがヘラトリに書いていることは、ありきたりなことと言えば、ありきたりな内容なのであるが、国際的な基準から見て一国の指導者が当然考えるべきことは踏まえていて、これを読む世界のヘラトリ読者の人々は、ロシアに対して親近感を感じるであろう。ロシアにとって、旧ソビエトのイメージを払拭することがなによりも大事なのである。ロシアというと、「遅れている」とか「西側諸国とは価値観を別にする国」というイメージが今でもある。これに対して、こうした国際新聞で国家元首がコラムで自分の意見を表明することにより、国際社会はロシアを自分たちと同じ価値観を共有していると感じるであろう。実際のところ、ロシアは他の国とは別の独自の価値体系をもったところがある。しかし、こうして新聞で国家元首が意志を表明することは大きな意味がある。
ひるがえって、わが日本国の小泉総理はどうであろうか。こうして世界の人々が読んでいる国際新聞に英語でコラムを書いたことがいまだかつて一度たりともあったであろうか。誰が読んでいるのかよくわからないメルマガでは、「らいおんはーと」とかいうものを書いているが、ブッシュの前でプレスリーのモノマネをする日本国の小泉純一郎と、自国で開催されるG8を前にしてInternational Herald Tribuneに英語でコラムを書いて載せるVladimir Putinの差は大きい。
話題は変わり、少し前になるがNewsweekのJun 26の特集"Can America Comperte?"はたいへん興味深かった。最近のNewsweekは、世界は今こうなっていて、こう変わってきていて、その新しい環境の中でアメリカはどうすればいいかというマクロ的な視点の記事が多いように思う。そして、そうしたマクロの変化が、実際の企業の現場にどう関わってくるのかという記事が多い。これは実質的に、世界は今大きく変化しているからだ。その中で、アメリカは、企業はどうあるべきなのかという問いかけが多い。こうした内容は、少なくともこれまでのTIMEやNewsweekにはなかったと思う。私は、学生時代の80年代からTIMEやNewsweekを読んできたが(といっても、その頃の自分の語学力では読むではなく、眺める程度であったが)、今のTIMEやNewsweekほど読んでいて楽しいものはない。あの頃は、アメリカとそれを凌駕する経済パワーになった日本との対抗しかなかったと思う。しかし、今はボーダーレスでフラットになった世界をTIMEやNewsweekの紙面から強く感じる。
この特集"Can America Comperte?"の中のFareed Zakariaのエッセイ"How Long will Ameria lead the World?"はたいへん示唆に富む記事だった。Fareed Zakariaはいい記事を書くジャーナリストだと思う。この人の本"The Future of Freedom"は買って持っているけど、まだ読んでいないけど。この人は、自分が進行役を務める"FOREIGN EXCHANGE Where America Meets the World"という番組を持っていて、この番組は全米のテレビで流れているわけであるが、ネットでもこの番組のウェブで見ることができる。最近はこうやってアメリカの番組をネットで見ることができるので、いい時代になりました。
このエッセイは、冒頭、1897年6月22日のイギリスのビクトリア女王の即位60周年式典の様子から始まる。ビクトリア女王の時代のイギリスこそ、世界に冠たる大英帝国に最盛期の時代であった。イギリスは、最新のテクノロジーである電報と英国海軍によって、この惑星全土を支配(当時のニューヨークタイムズがそう表現しているのだ)していた。そして、Zakariaは、この式典のとてつもなく豪華な式典を記述した次に、この式典を当時8歳の少年だった歴史家アーノルド・トインビーが見ていたことを書いている。トインビーは、このビクトリア女王の即位60周年式典が、大英帝国が最も輝いていたと回想している。つまり、この後、大英帝国は没落の道を進むのである。
では、アメリカはどうなのか、とZakariaは話を進める。このへんの書き方がうまい。イギリスのように、アメリカもまた全盛から衰退の道を進むのだろうかということである。Zakariaの結論はノーだ。アメリカは今後も発展していく。なぜならば、と話は進むのである。その理由のいくつかをZakariaは書いているが、その中で印象深いのは、まず人口である。
人口については、世界の先進国はどこも小子化になっているのに対して、アメリカは逆に人口が増える。これは、アメリカには移民があるからである。私も先日、アメリから帰ってきて、まず感じたのは日本は年寄りが多いということだ。アメリカでももちろん年寄りはいるが、ワカイモンも多い。この人口が増えているということが、アメリカの活力のひとつになっている。
次に教育だ。労働集約型産業や、アウトソーシングできる事務作業等は、今の時代は中国やインドへシフトしている。では、なにをもって外貨を得るのかということである。世界の中では、国は鎖国して自給自足でもしない限り、外貨を得て、その外貨で外国から資源や食料を買わなくてはならないのである。ではどうするのか。福祉産業では、国内で老人という同国人相手のビジネスになる。福祉は、基本的に外国との商売ではない。アメリカは、簡単に言うと、新しい知識や技術やデザインを世界のマーケットで売って商売していく国になろうとしている、というか、もはやそうなっている。そうした国になるためには、教育がもっとも大事であることは言うまでもない。ところが、我が国では、愛国心がどうのこうのという話しかされていない。愛国心が大切だということはよくわかるが、その先はどうするのだろうか。
個人が知識や技術を学ぼうと思ったら、いつでも大学や教育機関で学ぶことができるようになること。図書館などといった公共の知識・教育施設が充実していること。そしてなによりも、大学を出て就職して、その後、学校で学ぶことができないという今の日本の社会のあり方を変えることが必要だ。これは、ポストインダストリアル社会にとって致命的なことであり、これができないということは新しい産業社会には日本はならないということである。こうした根本的なところは何ひとつ変わらなくて、それで景気が良くなったと言っているのは、ようするにこれからの世界はどうなるのかわかっていないのである。
最後に、Time July 17から。Timeは"The End of Cowboy Diplomacy"というタイトルの記事で、ブッシュ政権の外交政策の終焉を述べている。この記事はUS国内版では、カバーストーリーになっていて、この記事をめぐって、アメリカのネットでは結構話が盛り上がっている。ブッシュの外交政策がいかに間違っているかということは、このブログでも何度も書いてきた通りだ。最近のTime,Newsweekは、はっきりとブッシュ政権の外交は間違っていたと主張するようになってきた。当然といえば、当然のことなのであるが、これも政権の任期が終わりに近づいてきたこととも関係しているであろう。ワタシからすれば、NYTも含めてイラク戦争の開戦時、Time,Newsweekも明確に反対しなかった、いまさら何ゆーてんねんという思いがあるのであるが、まあ、あの時それをやったらヤバかったということもあるが。
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