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June 13, 2006

旅立つ前に考える

旅立つ前に、つらつらと考える。

ネオコンというのは、読んで字の如く「ネオコンサーバティブ」(Neo conservative)の略であり、この言葉に従えば「新しい保守主義」ということになる。では、なにがどう新しいのか。ネオコンとはなんであろうかと考えてきたが、これは保守というよりも、リベラルの傍流というか鬼子みたいなものなのではないかと思う。少なくとも、保守の伝統主義とリバータリアンの流れから出てきたものではない。ネオコンには、もともとリベラルで民主党の言論人であった者も多い。

ちなみに、ネオコンはキッシンジャーのようなリアリズム主義とは違う。ネオコンは、リアリズムのパワーポリティクスよりも、アメリカ民主主義を世界に普及しようというManifesto Destiny的な使命感があり、いわば思想が世界を変えることができると考える。その意味では、コミュニズムと同じである。アメリカ革命のイデオロギーが、中近東のイスラム世界と対面したのだと言えるだろう。イラク戦争は、経済的側面から見れば石油利権の目的があったが、実質的には思想の戦争であった。

このイラク戦争が泥沼化している。

ザルカウィ幹部を殺害しようがどうしようが、イラクの情勢はもはや内戦状態になっており、出口なしの状況になっている。さすがにここまでくると、誰でもアメリカは劣勢であることはわかってきたようで、保守派の中にも事態の深刻さを認める発言が出てきた(まー、いまだに「負けた」ことを認めない人々も多いが)。イラク西部のハディサでの米軍による住民虐殺など、下がる一方のブッシュの支持率をさらに下げるような出来事ばかりが続いている。経済の先行きも不安定だ。

つまり、どうやら「帝国」の内部では、911以後の流れが明らかに変わり始めている。これが、これまでのブッシュ政権の外交の思想的背景になっていたネオコン思想の終わりの始まりになるのか、それともネオコンはこの現実を乗り越えて、さらに今後もアメリカ外交に影響を及ぼすことを続けていくのだろうか。このへんを注目したい。

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Comments

初期のネオコンとはトロツキー主義からの転向組でレオ・ストラウスの思想的影響を受けた知識人を指すようですが、時代が下ると必ずしもストラウスの影響を受けた人物ばかりではなくなったようです。

今やネオコンという語はかなり広義に解釈されているようで、リベラルからの転向組でもないチーニー副大統領やラムズフェルド現国防長官まで「誤って」ネオコンと報道される始末です。さらに広く、ブレア英政権までネオコンと見なす論文もあります。(フェビアン主義が保守化したという意味では確かに「ネオ」コンですが。)

ただ、Manifesto Destiny的な使命感はネオコンと分類される特定の人脈でなくてもアメリカ政界に広く行きわたっていると思われます。そう考えると、ネオコンというグループが仮に後退しても、ネオコン的な発想は残り続けるでしょう。

舎さん、

ネオコン的発想は今後も残ると思います。ようはそれが外交政策の主流であり続けるかどうかです。ネオコンの特徴はアメリカ単独主義です。これは20世紀末ソ連が崩壊し冷戦が終わり、超大国はアメリカだけになったということと、アメリカが世界最強の軍隊を持つことになったということからきていると思います。だからこそ、アメリカ一国でアメリカの理念を世界に広げよう、それが善であるという考えです。ロバート・ケイガンが書いたようにヨーロッパとの関係など必要ない、ホッブスの平和をアメリカは行くということです。これについては、フクヤマが近著で批判しています。ヨーロッパとの非関係を今度も貫くことがよいのかどうかということです。

もうひとつ、アメリカの単独主義の前に立ちはだかるのが、イスラムではなく、やはり中国だと思います。現在、中国はユーラシア大陸全土を覆うかのような同盟機構「上海協力機構」の設立を進めています。かつて、19世紀にグレートゲームと呼ばれる、中央アジアの覇権を得るために帝政ロシアと大英帝国が鎬を削った時代がありますが、今、それをやっているのが中国です。映画「シリアナ」でも出てきましたが、中近東では石油プラント工場建設の契約の場には中国人の姿が多くなってきているようです。現在、中国は急速な経済成長を支えるために、中央アジアから中近東にかけてのさまざまな資源を確保したいとしています。

「上海協力機構」にはロシアも参加しており、私はこの「上海協力機構」はかなり重要な出来事だと思います。今後、ユーラシア大陸は、アメリカ(つまり、その同盟国日本)に対抗する、中国とロシアを中心とした巨大な同盟圏になりつつあります。日本はこのことになんの危機感も感じないのが不思議です。

この「上海協力機構」に、アメリカの単独主義がどう立ち向かうのか、そもそも単独で立ち向かえるものなのか、が次の課題になると思います。

>ロバート・ケイガンが書いたようにヨーロッパとの関係など必要ない、ホッブスの平和をアメリカは行くということです。

ケーガンはむしろアメリカとヨーロッパの間でのハードパワーの格差が政策を大きく分けていると主張していたのでは。その後のワシントン・ポストのコラムでは、大西洋同盟の強化によってイスラム・テロばかりか中国とロシアの潜在的脅威に対処しようと主張しています。それどころか、今のケーガンはブリュッセル在住で米欧関係の研究をしているくらいです。

アメリカと同盟国の力の格差を基に議論を進めているということで、ネオコンにはリアリストの思考を踏まえていると私は考えています。

単独主義という語も、実はかなり飛躍しているのではと思えます。イラクでは臨機応変の有志連合で乗り切ろうとしましたが、これについてはネオコンの間でももっと恒久的な同盟関係が模索されています。

最近、こちらのブログで取り上げたトマス・ドネリーはユーラシア周辺国のイギリス、日本、インドを中心にアメリカの同盟関係を再編成しようと主張していますが、ロバート・ケーガンは大西洋同盟の再構築を訴えているようです。

ともかく、アメリカがどのような同盟関係を築くかは今後の行方を左右します。ヨーロッパや日本は言うに及ばず、インドとはどのような関係になるのか?何度もこちらのブログで取り上げている国だけに要注意です。

舎さん、

ネオコンの特徴のひとつに、アメリカの民主主義を広げることは道徳的に正しいという正義感、使命感があります。リアリズムはこうした思考をしません。価値中立です。このへんがネオコンとリアリズムの違いではないかと思います。

インドについては最近のNewsweekにまた特集がありました。ボンペイは現在急速に変化しています。国際政治とは別にグローバル経済というものがあり、それは同盟関係とは別のものであり、無視することはできない「つながり」です。つまり、これですね。国際政治の「つながり」とボーダーレス経済の「つながり」の双方を見ることが必要だと思います。

Gordon BrownのエッセイもNewsweekに載っていました。Brownはイラク戦争に反対していました。彼はグローバル経済を理解している人ですので、英米関係はこれまでのブレアのようにはならないのではと思います。もちろん、イギリスにとって対米関係が重要であることは言うまでもないことですが。

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