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March 06, 2006

インドの時代

 NewsWeek March 6に載っていたNewsweek Internationalの編集者でありコラムニストのFareed Zakariaの"India Rising"は興味深いものだった。この人は、NewsWeekに来る前はForeign Affairsの編集をやっていた人だ。今回のNewsweekは、この人のコラムで13ページも使うという、おめーこんなにJapanについて紙面を割いたことはないじゃあないかと思うぐらい、どおーんとインディアなのである。

 とにかく中国とインドの二つの国が、今アジアでもっとも注目されている国である。Zakariaによれば、日本(とヨーロッパ)は終わった国になっている。つまり、中国の台頭がアジアの勢力図を大きく書き換えようとしているのだ。先日、インドにブッシュ大統領が訪問したが、中国を牽制するためにも、アメリカはインドと手を組む必要があるのであろう。

 アメリカは、中国よりもインドの方が理解し易い。もちろん、アメリカとインドは全く異なる文明であるが、インドは英語が共通語になっていることは、世界経済に参入する上で強みになっている。

 例えば、パソコン会社のお客様問い合わせ窓口など、アメリカの企業はこうした業務で、インドの専門会社を使っている。アメリカ国内のとあるユーザーが、パソコンでわかないことがあるので電話で問い合わせてみようとしたとしよう、問い合わせ窓口に電話をかけるわけであるが、そのフリーダイヤルの電話は自動的にインドへ転送され、インドの問い合わせ窓口業務請負会社のオペレーターに回される。電話をかけている側は、まさか話している相手がインドにいるとは思いもせず、なんか若干インドなまりの話し方だなとは思うけど、インド系アメリカ人はざらにいるのでめずらしくもなんともないわけだ。用は、自分の疑問が解消するのならば、相手が誰だろうと、どこにいようと関係ないのである。

 こうして顧客電話対応業務をインドにアウトソーシングすることによって、企業はコストを削減することができる。これは、インドでは英語が共通語になっている(インドにはインドの固有言語があるが、地域や民族などによって異なる)からできることである。ただし、英語ができれば、それでこの種の仕事ができるというわけでもなく、このようなアメリカ企業のオペレーターの職に就職するには競争率が高いらしい(というのを、以前、CNNで見たような気がする)。

 ただし、それではアメリカ国内で顧客電話対応の業務をやっていた人はどうなるのかというと、これは職を失うということになる。このへん、グローバリゼーションによるホワイトカラー業務の削減による失業は、アメリカ国内では深刻な社会問題になっている。ちなみに、日本では、こうした業務を中国で行うという動きがある。そのため、中国では日本語学習が高収入の職につける手段になっているところもあるという。

 Zakariaの特集記事を特に興味深かったのは、次の箇所だ。

"India's growth is messy, chaotic and largely unplanned. It is not top-down but bottom-up. It is happening not because of the government, but largely despite it. India does not have Beijing and Shanghai's gleaming infrastructure, and it does not have a government that rolls out the red carpet for foreign investment?no government in democratic India would have those kinds of powers anyway. But it has vast and growing numbers of entrepreneurs who want to make money. And somehow they find a way to do it, overcoming the obstacles, bypassing the bureaucracy. "The government sleeps at night and the economy grows," says Gurcharan Das, former CEO of Procter Gamble in India."

 つまり、どういうことかというと、通常、後進国が経済を発展させるためには、強力な中央集権体制になり、優れた政治指導者が国内の産業を育成する政策をとることによって行われる。日本はかつてそうであったし、フランスも、ドイツも、ロシアもそうであり、中国も、シンガポールも、マレーシアもみなそうだ(アメリカはちょっと違う)。ところが、インドはそうではないのである。別に政府がなにかをやったわけではなく、企業が勝手に自ら道を見出し、そこに向かって進んでいったのであった。これは、産業社会の発展モデルとして非常に興味深いものがある。

 もちろん、こうしたことの背景には、Zakariaも書いているように、インド独立時の指導者であったネルーの優れた自由主義政策がある。その娘、インディラもまた優れた指導者であった。第二次世界大戦以後、インドには優れた指導者が数多く現れている。インドはソ連が崩壊し社会主義のくびきから解かれた以後、大きく飛躍していった。そして、現在、IT産業のめざましい発展にのって、インドはボーダーレス経済に参入しつつある。


(Zakariaの特集記事"India Rising"の全文は、彼のサイトで読めます。関心のある方はこちらです。)

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「経済・政治・国際」カテゴリの記事

Comments

インドについてはこちらのブログでもよく取り上げています。特に9・11以降はサウジアラビアやパキスタンへの信頼が揺らいだこともあって、アメリカンのインドに対する期待は高まっています。ただし、ブッシュ政権のインド政策に対して、余りにも拙速な接近だと不安を抱く当局者や専門家も多いです。

インドはアメリカにとって重要なパートナーになることには疑いの余地はありません。だた、誇り高き、元非同盟諸国の雄だけに、今後の関係発展には紆余曲折はあるかも知れません。

ところで、参照リンクを読んでみたのですが、アメリカにとってヨーロッパや日本はもはや終わった国だという記述はどこにも見当たらなかったのですが。確かに新興国は旧来の大国より注目されやすいのは確かです。だからと言って、安定したパートナーとなっていない国がこれまでのパートナーに取って代わることは有り得ません。

まずアメリカとヨーロッパとの関係では
1)有力シンクタンクや政策形成に携わる者の人的交流では圧倒的多数が大西洋間。
2)NATOの作戦行動範囲はヨーロッパ外にも拡大。アフガニスタンがその第一歩。
3)イラン問題では米欧共同が強化
4)パリ暴動やデンマーク風刺画事件より、米欧は再接近
5)イラク開戦前、表面上の反戦とは裏腹にドイツがアメリカに情報支援をしていた事実が発覚。

等々

日本については次のコメントで書きます。ザカリアは書いていないうえに、事実としてヨーロッパも日本もアメリカにとって「終わった国」とはなっていません。

ともかく、インドはもっと注目されるべき国です。ところで、真魚さんへのTBができなくなっているのですが。スパムのコメントやTB排除の設定で何かをコンピューターが誤認しているのでしょうか?

Posted by: 舎 亜歴 | March 12, 2006 at 04:16 PM

舎さん、

Zakariaがヨーロッパと日本はdecliningしていると書いていたのは、Feb 27号のコラム"Nixon to China, Bush to India"でした。Feb 27号とMarch 6号を通して読んだので混同したのだと思います。URLはこちらです。
>>http://www.fareedzakaria.com/articles/newsweek/022706.html<<

もともと、ソ連が崩壊した後、アメリカの対ヨーロッパ政策は当然のことながら大きく変わりました。これは、みなさんよくわかっているわけです。しかしながら、現在、アメリカの対日政策が大きく変化していることが日本ではよく知られていません。アジアで見れば、中国とインドとロシア(かりにロシアをアジア地域に含めるとしてですが)の3大国の爆発的な成長により、日本の相対的地位は下がっています。アメリカの対日政策が変わっていくように、アジアにおける日本の位置の変化を踏まえて、日本もまた対外政策を考えなさなくてはならないわけです。ところが、ここがまったく見えてきません。戦後半世紀、日本の対米依存関係は変わっていません。

上記の3国+ブラジルを含めた4国が、今世紀前半に大きく経済発展していく可能性があります。ただし、各国とも政治改革が必要になります。インドはテクノロジーとグローバライゼーションの最先端を走っている国ですが、その一方では従来のインド的世界があります。この差は非常に大きいです。この対立が悪い方向に行けば、経済の停滞、国家の崩壊です。これはロシアも中国も同じです。いずれにせよ、インドは注目すべき国です。

TBはまだできないでしょうか。

Posted by: 真魚 | March 12, 2006 at 05:33 PM

確かに以下のような文があります。

With China rising and Europe and Japan declining, it sees India as a natural partner.

ただ、どこを読んでもヨーロッパと日本が「終わった国」とは書いていないようですが。

確かにブッシュ政権はインドを重視していますが、ザカリアの記事にあるような中国封じよりも9・11を契機としています。ここ数年のアメリカ外交で大きな比重を占めるのは核不拡散とテロとの戦いなのは周知です。この問題では冷戦期のソ連進出の防波堤だったパキスタンの信頼が揺らいでします。インドについて書くならこのことをもっと強調すべきなのに、と思うのですが。

ヨーロッパは先にコメントした通りですが、日本の重要性が落ちているという見方も誤りでは?まず

1.アーミテージ・レポートなどで日本の役割を拡大する提言が出ている。
2.米軍基地の再編成では日本の基地がこれまで以上に重要になっている。
3.アメリカの同盟国として 、韓国の信頼が著しく低下している。ノ・ムヒョン大統領の態度は明らかに日米より中北重視である。
4.中国の脅威が増せば増すほど、日本の「英国化」を主張する声が挙がっている。これは主として軍やネオコンから。ただしリバータリアンなどは中国の市場を重視しているので、対中宥和の考えである。

いずれにしても、中国やインドの台頭が日本やヨーロッパの凋落と見るのは行き過ぎです。それどころか、AEIのレポートにはイギリス、インド、日本をアメリカの同盟国の軸とすべしというものまであります。

Posted by: 舎 亜歴 | March 19, 2006 at 06:03 PM

舎さん、

これは、どういう観点から今の日本とヨーロッパを見るかということだと思います。

Zakariaは、このコラム以外でもいくつかのコラムで、日本はdecliningしている、あるいは長期的低迷からまだ脱却していないと書いています。NewsWeekの編集者として、中国とインドの今の姿を知っている彼の認識では、日本は衰退しつつある、日本は終わったと考えているのは明らかです。

これは70年代や80年代に、逆にアメリカのメディアで、日本が大きくもてはやされ、あたかも日本の時代になったかのように報道されたこととの落差もあると思います。彼には、あの頃の日本は奇跡の工業国と言われていたのに、今の日本のこの姿は一体なんであるのかという思いがあるのではないでしょうか。これはZakariaだけではなく、アメリカのメディア全体の思いでもあるのだと思います。

当然のことながら、アメリカにとってヨーロッパと日本は重要な相手であることには変わりはありません。日本についてご指摘されたことは、どれも正しいと思います。しかしながら、それらは国務省やペンタゴンから見た「日本」であって、ボーダーレス経済から見た日本ではありません。アメリカの安全保障の観点のみから見た「世界」であって、NewsWeekのZakariaが見ている世界とは違います。

私はアメリカのオンラインサービスのコンピューサーブのジャパンフォーラムに関わっているわけですが、一昔前ではアクセス数はものすごく多かったですが、90年代以後、アクセス数は下がる一方です。もはや閑古鳥状態になっています。これはアメリカの一般の人々の日本への関心が急速に低下したことを表しています。また、大学での日本研究コースの志望者は、以前の日本ブームの時と比較して低下しています。かつては日本スタディでdegreeを取得し、日本語ができればワシントンDCで高給な職につくことができましたが、今ではそうはいきません。中国や中近東スタディでdegreeを取った方が有利のようです。

結局これはどういうことかというと、アメリカはもはや自国の安全保障の観点でしか日本を見なくなったということです。かつてのような経済の競争相手とは見なくなったということです。もちろん、トヨタの車は売れているわけですが、アメリカの産業界全体を打ち負かすというわけではありません。特に金融とITと運輸では日本企業は完全に敗北しています。

Posted by: 真魚 | March 21, 2006 at 02:00 PM

>>私はアメリカのオンラインサービスのコンピューサーブのジャパンフォーラムに関わっているわけですが、一昔前ではアクセス数はものすごく多かったですが、90年代以後、アクセス数は下がる一方です。もはや閑古鳥状態になっています。

良かれ悪しかれ日本との関係は安定したためでは?アメリカ人の関心が高まるのは、自国にとって何かと「大きな問題」を突きつける国です。最近までソ連東欧の専門家が良いポストに就くことが多かったのが顕著な例。

ところで、真魚さんのフォーラムは投資銀行などの人が多いのですか?中国もインドも経済では注目を浴びながら、一般のアメリカ人にはイスラム世界やヨーロッパほどの関心を持たれていないとう印象を私は持っています。

欧米人はイスラムに、日本人は中韓にばかり目がいって、インドへの注目度はもっと上がってしかるべきだとこちらのブログに書いたことがあるほどです。

Posted by: 舎 亜歴 | April 01, 2006 at 01:38 AM

舎さん、

安定でしょうか。ハリウッドの映画を見ても、とてもまともな日本についての知識を持っているとは思えません。

一般のアメリカ人について言えば、日本と同様に、その時その時マスコミによく出る外国に注目が集まります。注目は集まりますが、イラクやイランが世界地図のどこにあるかわかっているのでしょうか。

インドは重要ですね。経済的にも、政治的にも。最近翻訳が出た本で、Prestowitzが"The Great Shift of Wealth and Power to the East"という本を書いています。

Posted by: 真魚 | April 02, 2006 at 02:59 AM

最近、インドに関する記事を書きましたが気合を入れ過ぎました。参照リンクが多くなり過ぎて、ブログには労力が過大でした。

それにしても、それだけ力を入れた記事にコメント、TBできる相手がいない!

日本人のインドに対する関心とは、カレー、宗教、癒し、株・・・・・。唯一の被爆国だの何だのと言って、9・11もテロも核も出てこないとは!!!

現在、ニフティでコメント・TB障害を修理中らしいので、後でこちらの記事をTBします。

Posted by: 舎 亜歴 | April 09, 2006 at 11:52 PM

舎さん、

どうぞ、どうぞ、TBをお待ちしています。
インドについてコメントしましょう。

実は、こちらも舎さんの「ブッシュ大統領2006年一般教書演説」に対して書こうと思っているものがありまして、今日書こうと思っていたのですが、演劇を見に行ってしまったのでまとまった時間がとれませんでした。近日に書こうと思います。

Posted by: 真魚 | April 10, 2006 at 12:59 AM

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