『その場しのぎの男たち』
先日、舞台版の『笑の大学』のDVDがあることを知り、渋谷や新宿のHMVや秋葉原で探したのだけどなかった。こりゃ店頭では手に入らんな、ネットで注文するしかないなと思いながら、なんとなくお店の棚を見ていたら、同じ三谷幸喜脚本で『その場しのぎの男たち』というのがあった。手にとって見てみると、なんと佐藤B作さんではないか、伊東四朗さんも出ているではないか。物語は、明治24年に起きた大津事件を題材にとっているという。これは観てみなくていかんと思い、早速買い求めて、自宅へまっしぐらに帰った。
これはおもしろかった。舞台での佐藤B作さんを観たのは、前にNHKでやっていた井上ひさし脚本の『國語元年』という演劇で、これはおもしろい作品だった。その昔、僕たち日本人は各地の方言で会話をしていた。明治維新によって東京に新政府ができたが、この新政府は薩長土肥の諸藩の寄り合い所帯のようなもので混乱していた。この混乱の原因のひとつは、話言葉が違うということであった。そこで明治政府が行ったことは、全国的に統一した共通の話言葉を制定することであった。『國語元年』は、この全国統一話言葉の制定作業を命じられた文部省の役人の一家の喜劇なのだけど、これはおもしろかった。佐藤B作さんは、その文部省の役人を熱演していた。
『その場しのぎの男たち』は、その佐藤B作さん主演ということであり、三谷幸喜の脚本ということで観てみたわけであるが、これもおもしろかった。
大津事件とは、明治24年に起きたロシア皇太子暗殺未遂事件である。ロシアの皇帝アレキサンダー3世の長男であり皇太子のニコライは日本を訪問した。この一行が滋賀県の大津を訪れたとき、沿道で警備中だった津田三蔵巡査が突然サーベルで切りつけて負傷させるという事件が起きた。これには、日本中が騒然となった。なにしろ、次の皇帝を切ったのである。しかも重傷であった。ロシアと戦争にでもなろうものなら、この国は滅びることは明らかであった。このへん、歴史小説としては、シバリョーの坂の上でも、この出来事について触れているが、くわしく知りたいのならば吉村昭の『ニコライ遭難』がお勧め。
こうした状況の中で、ホテルの一室を舞台とし、三谷脚本でおなじみのシチュエーション・コメディ(おなじみなのか、というといろいろ意見もある)が展開される。政界喜劇である。『その場しのぎの男たち』というタイトルがいい。松方正義総理大臣は、内相の西郷従道、外相の青木周蔵、通信大臣の後藤蔵二郎たちとともに、なんとかこの国難を脱しようと、数々とその場しのぎの対策打ち出すが、打つ手、打つ手がみんな外れていく。そこに佐藤B作の演じる陸奥宗光と伊藤四郎の演じる伊藤博文の駆け引きがあって、とにかくおもしろい。
演劇は実際に舞台で観るのが一番いいのだけど、そんな時間がないので、こうしてDVDで観ているのだけど、それにしても演劇もののDVDって値段が高いよな。あー演劇を見に行きたい。
« 今週のTIMEのcover storyはLivedoor | Main | 『ウェブ進化論』備忘録その1 »
Comments
The comments to this entry are closed.
今晩は。演劇には詳しくないのですが、昔有人に芝居をしている者が何人もいたので、何度かチケットを買って見に行ったことがありました。テレビなどで見る物と違い舞台で見るとその迫力には驚かされることが度々ありました。もう二十年ほど舞台を見ていませんが、面白い物が有れば子供を連れて行ってみたいなと思います。
Posted by: アッテンボロー | February 06, 2006 09:23 PM
アッテンポローさん、こんばんわ。
ある程度の年齢にならないと演劇のおもしさはわからないかもしれません。しかし、映画と違い、舞台演劇は見る機会がなければまず見ないと思いますから、お子さんに演劇を見せるのはよいことですね。
Posted by: 真魚 | February 07, 2006 01:27 AM