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December 30, 2005

2005年のメディアとネットの出来事を振り返る

 2005年のメディアの出来事を振り返ってみたい。今年の初めのライブドアがニッポン放送の株の買い占めを行うことにはじまった、ライブドアとフジテレビジョンによるニッポン放送争奪騒動について、これが起きた時、堀江貴文ライブドア社長は「放送とITの融合」と言っていた。これを聴いて、僕は「放送とITの融合ってなんだ?」と思った。

 実際のところ、ホリエモンのその後の発言を見ても、「放送とITの融合」について、具体的な内容が示されることはまったくなかった。つまりだ、ここで僕は思った。ようするに、ホリエモンという人は、放送やITについて実質的に考える能力を持った人ではないなということだ。ホリエモンの目的は「放送とITの融合」ではなく、自分が購入したニッポン放送株を、高値でフジテレビジョンに買い戻させるということであった。そして、その筋書き通りに物事は進み、ホリエモンは巨額のカネを取得し、ライブドアの知名度も大いに挙げた(よって、ライブドアのポータルサイトの集客力も高まった)というわけである。

 こうした方法で、巨額の資金を得ることができるということは、アメリカではよくあることであるが、日本ではめずらしい。いわば、銀行からカネを借りるということをしなくても、会社はこうしてカネを得ることができる、ということの見本みたいな出来事であった。もちろん、だからといって、誰でもできることではない。ホリエモンは、株を使った金儲けの能力には、天才的なものがあるのだろう(実際に画策したのは村上氏であろうけど)。旧世代の経営者には、思いもつなかったことを、さらりとやってのけたホリエモンを若い世代が支持したのも当然である。

 それでは、カンジンの「放送とITの融合」はどうなるのかというと、実はそんなものはない。テレビとインターネットを融合させても、あまりメリットはない。ホリエモンも、そのことはわかっていて、当初、フジに株を買い戻させるだけのつもりであったのだろう。ところが、途中になって、本気でフジの経営をしたいと言い出した(ように見える)。このへんがまたホリエモンの、株にはくわしいがIT方面のことはよく知らないという一面を表していた。結局、この騒動は、フジが高額で株を買い取り、ホリエモンの勝ちとなった。しかし、この人はそこから得たカネでなにをやるのだろうかと思っていたら、選挙に出たり、宇宙旅行をやるとか言ったり、なんかよくわからない。

 ここで今年、広告の費用対効果でインターネットがテレビを抜いたということを考えたい。ハードディスク・レコーダーでのテレビ番組の録画は、過半数の人々がCMをカットしているという。今後、ますますハードディスク・レコーダーは普及していくだろう。現在、アメリカで注目を集めているデジタル・ビデオ・レコーダ企業のTiVo(ティーボ)は、やがて日本にも参入してくることは十分予測できる。現在、TiVoの日本市場参入を妨げているのは電通であるようだ。電通にとって、テレビのCMをスキップされるのは困るのである(だったら、電通はテレビ局とつるむのはやめて、ネットでの広告商売をメインにすればいいような気がするけど)(ちなみに、日本のメディアの本当の親玉は電通である。メディアは電通の批判はできない。さらに言えば、電通は自民党のメディア担当企業である)元々、民放テレビのビジネスモデルは、CSテレビの専門チャンネルとは違い、視聴者には無料で番組を見せて、スポンサーからカネを得るというものである。それがCMをスキップされると、このビジネスモデルは根底から成り立たなくなり、テレビ局の死活問題になる。

 デジタル放送への切り替えなど、一般大多数がテレビを見るということを前提にしているが、従来とは異なる状況がもう目前に迫っている。電通がどうしようと、テレビ局がなにをしようと、もはや、テレビのCMなど視聴者は見なくなる世の中になりつつある。その割には、テレビ業界に危機感はないのは、電通(および自民党)が守ってくれるものだと確信しているからなのだろうか。

 もう一つは、今のテレビの番組は、おもしろくないということだ。自分が歳をとったからなのかもしれないが、自分が子供の頃の70代や80年代のテレビの方がおもしろかったように思う。最近のテレビは、スポンサーの影響が強く、それが番組をどんどんつまらないものにしているのではないか。これに対して、インターネットの使用時間は増えているという。つまり、広告媒体としてのテレビの価値はなくなりつつある。

 だからこそ、楽天の三木谷社長のTBS株の買い占めと経営統合など、今後、斜陽産業になるテレビ局と組んでなにがいいのかさっぱりわからん。今月、テレビ局の株の買い占めなどには見向きもせず、「Yahoo!動画」で「TV Bank」というネットでの動画コンテンツサービスを本格的に開始し始めたソフトバンクの孫正義社長の方がよくわかっていると思う。今年から始まった動画配信サービスの「GyaO」にも注目したい。コンテンツは無料で提供し、インターネット広告で収益を得るというのは、当然のことながらテレビにはない新しいビジネスモデルである。

 ネットでの新しいビジネスモデルをまざまざと見せてくれたのが、アップルのiPodとiTunes Music Store(iTMS)だ。今年の音楽業界で起きたこの出来事は、衆院選で自民党が歴史的大勝をしたことなんかよりずっと意味がある出来事だった。音楽のダウンロード販売は、日本でも何年も前から行われてきたが、著作権の問題からユーザ主体の販売になっていなかった。レコード会社の都合が優先され、ユーザは不便を強いられていた。もし、アップルというアメリカの企業の日本市場への参入がなかったら、今年も来年もさ来年もずーと、我々ユーザは不便を強いられていた。そこに、風穴を開けてくれたのがアップルである。

 従来の日本のやり方は、ダウンロードしたパソコンでしか使用できず、CD-Rへの転送は一部楽曲を除いてダメ、携帯音楽ディバスへの転送は回数制限ありという、とにかくみんなダメダメ、曲の価格も高いというものであったが、みーんなOKで、曲の価格も安いというiTMSの日本到来は、日本の音楽シーンで革命的な出来事だった。アップルの参入により、日本の従来の音楽配信サービスをその商売の方法を大きく変えざるえなくなった。やはり、この国はアメリカが入ってこなければ新しい動きが起こることはなく、日本人だけでは、なにも変えることができないのだろうか。

 文化庁は、JASRACなど「iTMSによってダウンロードした音楽ファイルをフリーでじゃんじゃんiPodにコピーして聴かれては、音楽CDが売れなくなるので困る」団体からの要求を受けて、文化審議会著作権分科会法制問題小委員会なるものを発足し、iPodに課金をかけること検討している。現在、結論は見送りになっている。

 iTMSのようなことが、今度、テレビ番組などといった映像の世界でも起こるであろう。アメリカでは、ABC、Fox、NBCだけではなく、CBSやNBCなどの番組もiTMSで購入しiPodで見ることができる。日本でも今月、「PodTV」というiPod向け専門テレビ局ができた。番組そのもので料金を取るか、それとも「GyaO」のように番組は無料で提供し、広告で収益を得るか、どちらが主流になるか今後注目したい。

 最後に、今年起きたネットのことで印象深いのは、人工衛星からの映像をベースに、全地球上を鳥瞰することができるようになったということだ。NASAの「World Wind」もすごいが、Googleの「Google Earth」もまたすごい。これほどのものを、パソコンの画面で見ることができるということは、根本的ななにかが変わるということだろう。そのなにかというのは、まだよくわからないが。マウスでぐっとズームインすれば、東京の拙宅の辺りが見れて、そしてズームアウトすると宇宙空間に浮かぶ地球の姿が見えるというのは、自分の中の世界観のなにかが変わるような気がする。一台の小さなモバイルパソコンでも、そのディスプレイに全地球を映し出すことができる。これは、ネットとITの潜在的な可能性を感じさせてくれるものであった。この感覚が、既存のメディアにはない。

 少なくとも言えることは、今年は、巨大メディアの終わりの始まりの年になるだろう。

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