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December 23, 2005

なぜネットにシンクタンクを作らないのか

 20日の朝日新聞の記事に「動かぬ?政党シンクタンク」というのがあった。自民、民主党が進めようとしているシンクタンク構想が、カネがかかる、研究者が集まらない、そもそも、そんなもん必要ないではないか、ということであまり進展がないという。

 民主党のシンクタンクは設立記念シンポジウムについては、参加されたBigBangさんたちのブログの記事に詳しく書かれている。それらを読んで、正直に言って、なんかこー時代遅れなことをやっているような気がしてならなかった。結局、これなら朝日の記事にあったように、全然進展はなく、ただ単に「我が党はシンクタンク(みたいなもん)を作りました」でオワリになるのではないかと思う。朝日の記事によると、自民党のシンクタンクは設立だけして、研究は外部の民間機関に委託するという。では、なんで党のシンクタンクを作るのであろうか。民主党は、当面や学識経験者や官僚を集めて、定期的に勉強会やシンポジウムを開くという。あーそうなの。なんつーか、有権者にとってはどうでもいい話だ。

 シンクタンクというものについて、ある特定の人々、いわゆる学識経験者や議員や官僚なる人々を、ある特定の時間に、ある特定の場所(六本木ヒルズすか?)に集めてシンポジウムなるものをやる、そして、それをネット配信やウェブなどによって、一般市民の皆様がインターネットで見ることが可能ですよ、という発想そのものが時代遅れだと思う。ネット配信にしたって、スティーブ・ジョブスのスピーチなら見るけど、学者と議員センセイと役人のシンポジウム?誰がそんなもん見るかと思う。Podcastにして、iPodにダウンロードできても聴きたくもない。モーリー・ロバートソンのi-morleyの方が聴いていてずっとためになるもん。

 そもそも、学者や議員や官僚という、社会の大多数の人々とは、かけ離れたところにいる人々による、高尚でアカディミックな発表や「議論」(彼らは本当の意味での議論はしない)で、社会や経済のリアルな現状を捉えることができるのであろうか。むしろ、様々な実社会で働いている人々(いや、家庭の主婦だって、働いていない引きこもり君やニート君だって)のいろいろな意見の方がずっと価値があるのではないか。そうしたリアルな現場からの意見の集合体を、ただの2ちゃんねる的なネット世論にせず、そこから社会と政治のあるべき方向が生まれてくるプロセスを作り出すのが、これからの時代の政党の役割であろう。

 だからこそ、そのためには、政党がシンクタンクを作るのならば、ネット上に作るべきだと思う。政党は、もっと有権者のことを考えるべきである。政治に関心があるというと、今の世の中ではなんか老人ばっかりになるが、それは老人にはヒマがあるからである。隠居した老人であるならば、フルタイムで社会のこと、経済のこと、政治のことを考えることができるであろうが、30代、40代、50代で働いている者は、そんなことできるわけがないではないか。しかしながら、働いていても、帰宅後や休日だけでも、社会のことや政治のことを考える場や機会があれば、積極的に参加したいという人は多いのではないか。本来、「政治や経済や社会について会話する、議論する」ということが、まるであたかも学者や官僚だけの特権的な役割であって、フツーの庶民はそんなことはしない、できないというのが一般認識であった。しかしながら、そんなことはまったくない。むしろ、学者や官僚に、そうしたことを任せてきてきたのが間違いであった。彼らに任せると、我々市民から搾取することばかりで、ろくなことはない。

 実際のところ、シンポジウムそのものをネットで行うことは可能である。パワポを使ったプレゼンだろうとなんだろうと、自分のパソコン上で見ることができる。議論はフォーラム形式の電子会議室でやればいいし、お知らせもメーリングリストでできる。資料入手はダウンロードすればいい。なにも、ある特定の時間と場所に「集まって」行う必要はないのである。そうすれば、こっちだって、いつでも自分の都合に合わせて「参加」することができる。日曜日にスタバで、ノートPCを開いて「参加」することだってできる。

 もうひとつ重要なことは、ネットでならば、外国で生活をしている日本人も参加できるということだ。僕は、一時期、アメリカのサンノゼやオークランドなどで生活をしている日本人のコミニティのネットの運営の手伝いをしたことがある。このネットでの政治議論は、非常にレベルが高かった。彼らは国外で暮らしているため、日本と日本人を客観的に見ることができ、それを実際に体験している。こうした国外からの意見が、国内の社会に反映されれば、どれだけ良いだろうと思ったことが何度もある。学者や官僚なんかのシンポジウムより、海外に住む日本人の意見の方がずっと貴重である。

 政党は、もっとパソコンとネットを活用すべきだ。そして、ネットワークから考えるという視点が必要だ。政党がシンクタンクを持って、学者や議員や官僚が考えるのではない。ネットワークそのものがシンクタンク(シンクネット?)であり、社会のおのおのの現場の人々が考え、意見を発信していくのだ。そして、ネットには国境はない。国内の日本人も、国外の日本人も、あるいは在日外国人でも、さらに言えば日本人であろうとなかろうと、とりあえず日本語の読み書きができるのならば誰でも参加できて、政治や経済や社会のことについて会話するネットの場が必要なのだ。これができれば、従来のマスコミや政党政治は根底から変わる。

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Comments

アメリカ共和党が保守主義に基いた形で政治復活を成功させた理由の一つは、シンクタンクにお金をつぎ込み、アイディアと人を育てたからだと言われています。

自民党・民主党は何らかの"ism"に基いての政治団体ではないので、シンクタンクは個々の課題についての勉強部屋以上にはならないとおもいます。シンクタンクをインターネットにもっていっても、それはかわらないと思います。

MikeRossTky

税務調査会とか有識者会議ってシンクタンクではないのでしょうか?

有識者=パートタイムシンクタンク参加者ではないでしょうか?

ほんとのシンクタンクは会社もしくは組織として予算を持って動くものではないでしょうか?

Mike

>>自民党・民主党は何らかの"ism"に基いての政治団体ではない

それが日本とアメリカの政党の違いです。日本の政治は思想やprincipleで動くことをしません。戦後半世紀間、日本は大国アメリカの周辺国であったため必然的にそうならざるえなかったわけです。

私は日本の場合はアメリカのようにトップレベルが考えて、それをトップダウン的に一般市民に広げていくのではなく、一般市民、さらに言えば中間階層の人々が考えていく、それを政治に反映させていく方法でいくしかないと思います。

てんてけさん、

税務調査会とか有識者会議は、その時だけの「話し合い」であって、長期的な調査や研究は行いません。予算もあまりかけません。

というか、日本には政治と連結したシンクタンクがないので、税務調査会とか有識者会議でいいんじゃないかという話になります。

朝日の記事では、アメリカでも政党に関わるシンクタンクはないみたいな書き方をしていますが間違いです。アメリカでは民主党系、共和党系とシンクタンクは別れています。アメリカ政治の強さの一つは政党とシンクタンクが連結していることです。ちなみに、今のアメリカで優れたシンクタンクの数多くは共和党系です。

さらに言えば、朝日の記事では、研究者は政治色がつくから政党のシンクタンクに関わりたくないと書いていますが、上に書いたようにアメリカでは研究者は政治に関わっています。社会科学の研究者であればあたりまえのことです。政治に関わるということは、共和党か民主党のどちらを支持するのかという明確な政治的態度の表明が当然必要です。こんなことは、アメリカではあたりまえのことです。このへん、日本の学者は政治的態度を表明することを嫌がるというのは日和見であり、現実逃避でしかありえません。社会に関わることをしない社会科学など、老人の盆栽趣味でしかありません。そのわりには、政府の審議会とか協議会とかの委員にはなりたがります。ようするには、政府に批判的な仕事はしたくないというわけです。

今晩は。
同じ朝日の記事で知りましたが、民主党は次に外交問題等をテーマにしたシンポジウムを開くようなことが書いてありましたね。シンクタンクの予算としては今年度1億5000万円程度が計上してあるそうですが、この予算の多寡が問題というよりも、やはりどれくらい本気で取り組む気があるのかが問題になると思います。おっしゃるようなネットでの運営にしろ、その他の形にしろ、ポジティブな発想を持てばいろいろとやり方は考えられます。

この問題に限ったことではないのですが、日本社会に色濃くある「アリバイづくり」のような発想。つまり、「やっているという姿勢」を見せることには熱心だが、魂がこもらない状態になるというのが、民主党に限らぬ一般的な病理のように感じています。

<<今のアメリカで優れたシンクタンクの数多くは共和党系です。

基本的に今の民主党の位置付けと1960年代の共和党は同じ立場にあると思います。当時の共和党はism"がなく、ただ単に、”お金持ち”の党、”ビジネスの党”と言われていました。ゴールドワーター上院議員などが”Conservatism"を共和党に取り込み、いくつかのシンクタンクを設立して、そのシンクタンクに必要な経費を集めてきたわけです。結果として、レーガン加州知事、大統領と言う結果をもたらし、今ではアメリカの下院、上院、大統領と選挙で得られるコントロールを保守が納める事に成功したわけです。

結果は初めて、早くて5年はかかると思います。1980年に私が大学に行った当時は”Young American For Freedom"などと言う大学での団体などがありましたが、数と参加者数は限られていました。また、アイディアに賛同する私でさえ、参加すると変人と言われたりしたので、私は参加しませんでした。

今ではこのような団体の数は数え切れないぐらいあります。リベラルな大学の環境の中で保守的なアイディアは育っています。

民主党の場合、”核”となる思想がありません。またリーダーの思想とサポーターの思想の一致がありません。いくらシンクタンクを作っても、成功する形ではないと思います。

MikeRossTky

BigBangさん、こんばんわ。

いわゆる「ハコもの行政」と同じですね。外交問題をやるのもいいんですが、今のこの状況で、果たしてまったりと外交問題をやっているのがいいのかどうか。というか、ああした形式のシンクタンク、シンポジウムになると外交問題とかいったことしかやれないですね。でまあ、またブロガーを何人か招いて、「民主党はブログやネットといった先進的なことにも注目をしています」というポーズを作るのでしょうか。ビジネスでCS(customer satisfaction)というのがありますが、政党にはVS(voter satisfaction)という考え方が必要なのではないでしょうか。政党は、教育業でもあり情報サービス業でもあるという発想が必要だと思います。

Mike,

The Bush Administration is not the politics of the conservative mainstream of the G.O.P, but the political power of fake conservatism!!

非常に興味深い話題です。ただ、シンクタンクが必ずしも特定政党と結びついているとは限りません。有名な外交問題評議会やウッドロー・ウィルソン・センターはbipartisanですが、それでも政治に深く関わっています。イギリスの王立国際問題研究所も同様です。

リバータリアンのケイトー研究所などは、自分たちの政策理念が実現されるなら共和党でも民主党でもかまわないという立場です。実際にケイトーがブッシュ政権支持なのは徹底した自由経済政策のためであって、イラクでは現政権とは意見が一致していません。

そして保守系やリベラル系というシンクタンクの色分けはありますが、アメリカのどのシンクタンクも政党の下請けではないはずです。ある程度は独自の立場があるのではないでしょうか?イギリスでも外交政策センターのようにブレア政権の意向で設立されたシンクタンクでも保守党の政治家をゲストに講演を行なうこともあります。

そう考えると、日本で持ち上がっているシンクタンク構想がまるで自民党や民主党の付属機関のように思われるのは少々気がかりです。

舎さん、

ケイトー研究所が政党から独立しているのはリバータリアンの立場に立っているからとも言えると思います。リバータリアンは徹底した自由主義ですから、実際の政治の現場ではなかなか実現することは難しいです。しかながら、そうした現実に迎合しない政治思想があって、それもまた歴然とした力を持っているというのがアメリカ政治に強さだと思います。

シンクタンクは、理念や思想の上に政策を立案します。実際の政治の現場はそうはなりません。この隙間が、結果的にシンクタンクの良い意味での客観性、中立性を生み出しているのではないかと思います。日本では、この隙間が「だから、学者の考えることは役に立たない」と扱われ、政治の現場から一歩離れたところで考えるということの意味も重要性も理解されていません。

もうひとつは、従来の日本の政治は官僚がものを考えて、政治家は考えてこなかったということも挙げられます。つまり、欧米のシンクタンクにあたる役割を官公庁が果たしてきました。近年は、これに対して政党独自にも調査・研究ができる機関の必要性の認識が高まってきたのではないかと思います。

私は政党の肝いりのシンクタンクがあっても良いが、その内容のレベルを評価するのは有権者であると思います。そのためにもシンクタンクという「ハコ」を作る必要はなく、ネットでバーチャルな思考の場を作ればいい、そこに学者や議員だけではなく、一般市民も参加してネットで考える場、教育する場を作る必要があります。それは言葉の正しい定義での「シンクタンク」ではないかもしれません。「シンクタンク」という名前はどうでもいいのです。

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