日本の"The Japanese Way"とは、なんなのか
とりあえず、昨日で今年の仕事は終わりとし、今日から年末年始のお休みモードになった。ようやくとれた数日間のお休み。ていうか、もう大晦日なんですけど。
というわけで、ここ数ヶ月分ぐらいの溜まりに溜まったTIMEとNewsWeeKを片っ端から目を通していった。日本についての記事を読んで思うのは、日本はまったく「終わっている国」扱いだなということだ。今、アジア経済で注目されているのは、当然のことながら中国であり、インドである。日本が記事になるのは、おもに政治の話だけで、日中関係や日韓関係の悪化についてのことぐらいだ。ようするに日本は、他のアジア諸国から孤立しているのだな、ということがよくわかる記事ばかりである。
NewsWeekのDec19の号のカバーストーリィが"Bush's World"というタイトルで、そのサブタイトルが"The Isolated President: Can He Change?"と書かれていて、"Isolated"とはうまく表しているなと笑ってしまった。まさに、今のアメリカは世界の中で"Isolated"(孤立)している。このへん、ヨーロッパの中で孤立しているブレアのイギリスともよく似ている。つまり、「ブッシュ-ブレア-小泉」というこの3人のもとで、「アメリカ-イギリス-日本」とその他の国々の間はどんどん距離が広がっているということだ。某元外務官僚によれば、日本はとにかく英米に従っていればいいとのことであるが、英米だけに従っていって、世界を敵(「敵」というのも語弊があるけど)にまわすのは、外交上いかがなことだと思うのであるが。
今年の1月1日に、僕は「2005年は中国が最大の課題になるだろう」と書いた。実際、今年の日本外交は中国が最大の課題になった。世界は今、中国に注目している。TIMEにせよNewsWeeKにせよ、中国についての記事が毎週載っている。日本がかろうじて記事になっているのは、この注目の的の中国との関係が険悪になっているから記事になっているのであって、それがなかったら、もはやJapanなんてワードは出ることすらなくなるのではないか。日本は、90年代にIT時代に適応した経済と社会に変革することができず、10年以上の不況に陥っているというのがTIME/NewsWeeKの日本観である。
TIMEのDec26/Jan2合弁号の記事"Standing Tall"を読むと、今やアジアのリーダーを目指して急速に成長しつつある中国に対して、日本の総理大臣が考えた策は、アメリカとの密接な関係を保つことと、靖国神社に参拝することであるという、まことに「ええんか、それで」という有様である。
NewsWeekのDec26/Jan2合弁号は、安倍晋三官房長官が表紙になっていたが、中身は3ページ程度の人物紹介記事があるだけだった。これは一体なんなのかよくわからん。同じくNewsWeekの年末特集号「ISSUES 2006」は、情報通信の発達が世界を変えたことを踏まえ、知識革命の時代がやってきたことを述べている。この特集は、日本版NewsWeekの12/28,1/4合併号でも読むことができる。今の経済は、知識や革新性や創造性を主体とし、それらがネットワークでつながり、共有することで価値を生み出している。NewsWeekの特集では、この新しい経済について書いていて、非常におもしろかった。
この中でシンガポールの首相であるLee Hsien Loongのコラム"The Singapore Way"に着目したい。Leeはこう書く。
"Globalization has moved beyond industry and is now penetrating the knowledge processing in every object, and link people and organizations in networks that are always on, always connected. Even in textiles, traditionally a low-tech, low-wage industry, a new breed of company has emerged. They manage a full season's offerings of department stores in the United States and Europe, creating the designs, sourcing the materials, organizing production in foreign countries and managing the logistics and value chains from beginning to end."
かつて大前研一が書いていたが、シンガポールには農民はいない。しかしながら、日本よりも農作物が安い。なぜならば、世界中で最も品質が良くて安いものを自由に輸入することができるからだ。今の時代の「国の富」とは、広大な領土やたくさんの資源を持っていることや強力な軍事力を持っていることではない。むしろ「持ってない」ことが強さになる時代になったのだ。シンガポールは、現代の時代で何が富をもたらすのかということについて、それは国境のない経済ということであり、世界とつながることだという明確なビジョンを持って進んでいる。
そして、Leeは書く。
"Countries all over the world are working hard to position themselves for the growing competition in the knowledge economy. Singapore is likely to do well in this environment. Our ethos is open, cosmopolitan and pragmatic. Our society is meritocratic and egalitarian. Our multiracial population is English speaking, but bilingual in Mandarin,Malay/Indonesian and other languages, and comfortable with European, American and other Asian cultures."
島国であるシンガポールは、まさにボーダーレス経済の時代に"is likely to do well in this environment"なのである。それが"The Singapore Way"なのだ。
ひるがえって、我が国の首相は、上記のようなことを言ったことがあったであろうか。同じ島国である日本の"The Japanese Way"とは、なんなのであろうか。靖国神社に参拝して、平和を願っていればそれでよくて、あとはアメリカ様がなんとかしてくれると思っているのであろうか。日本経済は、世界の各国に依存している。日本は、日本企業の製品を外国のマーケットで販売し、資源も食料も世界から輸入することで成り立っている国である。世界とつながることが日本の生存手段であり、世界との相互依存関係こそが、強力な安全保障である。それをわざわざ壊すようなことを行っているのが、今の日本である。「文句言ってきたのは、あいつらだろ」という声もあるかもしれないが、あの程度の文句で騒ぐような薄っぺらい愛国心しかないのだろうか。
このシンガポールのLee Hsien Loong首相のコラムは、なぜか日本語版には載っていない。アメリカにせよ、中国にせよ、韓国にせよ、シンガポールにせよ、世界は新しい時代の中で、新しい競争へ向かって進んでいる。では、我が国はどうかというと、株の操作でテレビ局から大金をせしめた話や、構造計算書を偽装したとか、小学生の殺害が続く話ばかりである。世の中の製品が完全に「安全」であるという確認をしなくてはならなくなったり、日本中の通学路のいたるところに、監視カメラを置かなくてはならなくなったとして、そのコストは厖大なものになるであろう。それらはやむを得ないことだとしても、そうやって、本来向けるべき新しい時代への労力を、日本社会はどんどん失っていくのである。日本だけが、さらに失われる10年の中にいるのだ。
映画『ALWAYS 三丁目の夕日』のラストシーンは、昭和33年の12月31日、完成した東京タワーの向こうに沈む夕日を見つめる夕日町三丁目の人々の姿であった。あの日から47年後の今日、僕たちはいかなる気持ちで夕日を見つめるのだろうか。
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