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October 03, 2005

iPodで読書

 ようやく休みの取れた日曜日、秋葉原へ行ってiPod60GBを買ってきた。ろくじゅーぎがバイトである。ここ数日間、買おうかな、どうしようかと考えていたのであるが、えーい買ってしまえと買ってしまった。

 これまで、旧機種のiPod40GBを使い続けてきた。このiPodは2台目で、最初はiPodが販売された当時すぐに買って、たしか数ギガしかなかったと思う。数年後、今の40ギガのものを買った。ところが、最近どーもバッテリーの持ちが悪くなってきたような気がする。大体、約3時間ぐらいは使っていると、もう「バッテリーがないから早く電源をつなげよ」という意味のメッセージが表示されるのである。約3時間持つのならば、通常の通勤の行き帰りの電車の中で聴くのは十分にまかなえるが、出張となるとそれなりの長時間を電車の中で過ごすことになる。こうなると、行きの電車の中では聴けても、帰りの電車の中ではバッテリー切れになることが多い。「電源につなげよ」と言ったって、電車の中でどうせよというのだとオロオロしていると、そのうちiPodはすとんと電源を落として、それっきりになってしまうのである。

 アップルのiPodは、SONYのウォークマンを遙かに凌駕する最強の音楽デバイスであるが、唯一の弱点はバッテリーの使用時間が短いということであった。こうした出先でiPodのバッテリーが切れてしまうと、ワタシなどは、ううっ音楽が欲しいという音楽禁断症状になる。電車の中で座っているのならば寝てしまうという手もあるが、立っている場合は、なにをするわけでもなく、ただぼんやりと立っているという状態になる。本を読むという手もあるが、iPodがあるから電車の中で読む本を持っていない。しょーがないので、つり革広告でも漫然と眺めるしかないのであった。これはイカン、なんとかせねばならないと思っても、iPodのバッテリーだけ売っていることはなく、うーむ、これは新しいヤツを買ったるかと思い続けてきた。

 その昔、iPodがこの世に出現した当時は、世のワカイモンは電車の中ではみんなMDやCDで音楽を聴いていた。Podなんか使っているのは一部のマックユーザーぐらいであったが、今ではiPodを持っている者はいたる所で見ることができる。しかも、みなさん、最新のiPodなのでスリムで薄いタイプなのである。僕のiPodはどってりとしていて、まるで石けん箱のようだ。この「石けん箱」の機種が出た当時は、このサイズで40GBなんて驚いたものだったのだけど、最近発売されたnanoにいたっては4GBで6.9mmという薄さだ。nanoを持っている人はまだ見かけたことはないが、最近のiPodはどれも薄い。電車の中で、薄くて軽いiPodを持っている、これまたスリムな体型のワカイモンやOLのお姉さん方を見ていると、「石けん箱」のiPodを持って、もはやオジサンの体型になってしまった我が身を省み、なんかこーカナシクなるものがあるのであった。

 それに、日本でもiTunes Music Storeが本格的に展開し初めて、かなり結構気楽にダウンロードをするようになった。これまで、近所のTSUTAYAでレンタルCDを借りるか、HMVやタワーレコードへ行って買っていたものが、例えば寝る前にちょっとMusic Storeにアクセスして、何曲か視聴して、おっこれはいいなとポチッと購入ボタンを押してしまうのだ。こんなことをやっているので、次第にiPodのディスクスペースがなくなっていく。40GBでは足りなくなってきた。もっと大きな容量が欲しい。

 と、上記のようなことを漠然と思っていたのであるが、そのうち、コレハやはり60GBぐらいの大容量のiPodにしなくてはならないと思うことがあった。iPodを音楽を聴いたり写真を見たりするデバイスだけではなく、映像を見たり文章を読んだりすることができるツールとして捉えることができるということを、オールド・マックユーザーの世界では有名なマックの伝道師でライターの大谷和利さんがネットで書いていたのを読んだ。言われてみればなるほど、iPodは新しいブラウジングスタイルをもった電子本のプラットフォームだったのだ。

 近年、電子本へ注目が高い。元々、パソコンで「本のように」テキストを読もうということから始まった電子本は、当初あまり普及することはなかったが、携帯電話でテキストやアニメを見ることができるようになった今日、新しい読書のスタイルとしての可能性を期待されるようになってきた。しかしながら、僕個人としてはケータイで「本」を読むのもなんだかなあと思ってきた。

 ところが、である。iPodで「本」を読むというのは、なんかアリなんじゃあないかと思うようになってきた。このへん、アンタはマックに対する思いれが激しく、アップルの製品ならなんでもかんでも革命性を感じるからそう思うのであろうと言うのならば、確かにそうですとしか言いようがない。しかし、そうであったとしても、iPodのあのシンプルな操作性はすごいではないかと思う。PDAにせよ携帯電話にせよ、とにかくめったやたらと機能がついて、なにをどうすれば、なにがどうなるのかさっぱりわからないではないかと思う。製品の進歩とは、機能やデザインの向上だけになっていて、機能が増えるたびに操作性はますます複雑になっていっている。これに対して、iPodは音楽を聴く機能に、デジタル写真を見ることができる機能が追加された。しかしながら、操作性は初期の頃と変わっていない。

 株式会社ボイジャーという、本を紙の上ではなくパソコン上で読むという電子出版に早くから取り組んできた会社がある。ここで、最近新しい試みとしてazur(アジール)というソフトをリリースした。「青空文庫」というサイトでは、版権がなくなった夏目漱石、森鴎外、芥川竜之介などの作品をテキストにして、自由にフリーでダウンロードできる。このテキストデータを一度パソコンにダウンロードして、次にazurを使ってデータを変換し、iPodやSONYのPSPやシャープのザウルスに送り、それらの機器でテキストを読むことができるようになる。DoCoMoやauのメモリスロット付き携帯電話でもこれは可能だ。

 ただのテキストの表示ならば、azurなんかなくたってできるじゃあないかと思うかもしれないが、「ただのテキストの表示」はフォントが美しくない。ヒラギノ、秀英明朝体などの美しいフォントで表示されたテキストが、それらの携帯デバイスで表示されるのである。つまり、テキストではなく、「テキストが美しく表示されたページ」そのものを画像データにしているのだ。本とは、ただのテキストデータの羅列ではない。ページのレイアウトやフォントがあって、人が読みやすいものになっている。「ただのテキストの表示」では「本」にはならないのである。このことはつまり、azurは電子出版のためのツールと言えるだろう。ボイジャー・ジャパンは、azur以外にも電子出版のための新しいツールを開発・販売しており、そうした製品を通して僕たちもまた電子出版の時代の黎明を感じることができる。志のある出版社である。昔は、マック用のソフトを作っている会社には、こうした志のある会社が多かった。今では、ボイジャー・ジャパンなど数社しかなくなってしまったように思う。

 さっそく、僕もPowerBookにazurをダウンロードして、買ってきた新しいiPodに青空文庫から寺田寅彦の「科学と文学」と夏目漱石の「現代日本の開花」のテキストデータを入れてみた。読んでみると、フォントはきれいで読みやすい。ページが小さな文庫本を読んでいるような感じがある。寺田先生も漱石先生も自分が書いたものが遠い遙かな未来の世にこうして読まれようとは思いもよらなかったであろう。

 このように、iPodにはさまざまなメディアの可能性があると思う。大谷和利さんが書いているように、映像とテキストが融合したメディアのプラットフォームとしての可能性もある。大谷さんも書いていたが、ミュージシャンがiTunes Music Storeで音楽を販売して、Pod Photo Booksでライナーノーツを提供するというのはいいアイディアだと思う。実は、iPodにはもうひとつPodcastingを使った新しいメディアの可能性もある。このへん、「初めにカネ儲けありき」のビジネスではなく、「初めにコンセプトありき」の志あるビジネスとしての展開も可能なのではないかと思う。資本主義とは、ユーザの需要(ニーズ)に対応した、いわゆる「売れる商品」を提供することによって利潤を得る経済システムであるだけではなく、ユーザにあるべき未来の方向性と可能性のようなものを情報や製品として提示する経済システムでもあるはずだ。アップル・コンピューターはそうした企業であり、アップルの出す製品のコンセプトに共感し、アップルの製品を使って、さらに遠くの未来を模索するボイジャー・ジャパンという会社もまたそうした企業のひとつだ。

 iPodを手にとって、そこにazurで変換された100年前の人々の文章を読む。その文章の合間に、これからの100年に成していかなければならないことをかいま見る。どうやら、僕たちはなにものかの継承の流れの中にいるようだ。

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