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September 13, 2005

勝ったのは、自民党なのか

 シンプルに考えてみたい。今回、小泉総理は「郵政の民営化に是か否か」とだけ問いかけていた。民主党は、郵政民営化には反対していたわけではないのであるが、「それ以外にもアレコレある」と言っていたので、有権者には「なんか民営化反対なんじゃないか」と思われたのかもしれない。いずれにせよ、小泉総理は「あなたは郵政民営化に賛成しますか」と(だけ)国民に尋ねたのであり、国民の大多数は「賛成する」と答えた。

 今回の自民圧勝は、小選挙区制による現象であると考えることができるであろう。ワン・イッシューの選挙で選挙民の支持を集め、歴史的な大勝を果たすというのは歴史上よくあることなのかもしれないが、小選挙区制度では、こうした自民党投票者さえも予測できなかった自民圧勝が起こるようだ。もちろん、これは逆の場合もありうる。有権者の民主党への支持が高ければ、小選挙区制では民主党圧勝ということも起こりえた。そのことを期待していたのが民主党の岡田代表であろう。しかし、その「読み」は甘かったというわけである。

 東京では、民主党の当選は菅直人氏のみであり、あとは比例で6人が当選したぐらいである。東京都でさえこうだったのだ。こうなると、自民党への批判政党に投票したい場合は、共産党に投票するしかないということになる。しかし、それはあまりにも極端なことであろう。今回の選挙で見えてきたことは、民主党の崩壊と共に、実は従来の自民党もまた解体の方向へ流れ始めたということだ。その意味では、小泉総理の自民党をぶっ壊すというのは正しかったということであろう。だからこそ今回の選挙は、小泉総理の勝利だと言われている。

 しかしながら、先日アニメの『SAMURAI7』をNHKのBSでやっていて最終回まで見て、このアニメの原作である黒澤監督の『7人の侍』のラストシーンで志村喬の演じる勘兵衛が語るあの有名なセリフが、やはり『SAMURAI7』でも使われたので印象深く思っているからなのかもしれないが。勝ったのは、自民党なのだろうか。むしろ、自民党はこれで国民の過剰な期待という重荷を背負ったように見えるし、無党派層の支持が次回の選挙もあるとは限らない。

 今回の郵政民営化は、無党派層の大多数にとって自分の利害に直接関わらなかったからこそ自民党への投票になったもの、税金や年金という自分の生活の利害に関わるものが対象になった場合、すんなりと自民党を支持するとは思えない。しかし、いやでもそれらについての政治的判断をしなくてはならない状況になっている。その時、今回自民党を歴史的大勝利に導いた有権者は、どのような反応をしめすであろうか。小泉総理の次の総理は、そのことを深く実感するであろう。

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Comments

 書かれておられることに、ほぼ賛同します。小泉氏は自民党を、「自民党」にした。革新政党のように見せ掛けることに成功した。古い自民党は死んでいるんですね、もう。僕のブログのリンク集に入れさせていただきました。お許しください。

京野菜さん、はじめまして。

選挙が終わって改めて思うのは、都市部無党派層は野党を選び、地方農村部や特定団体等は自民党を選ぶという図式が崩壊したということだと思います。これは改めて言うまでもなく「郵政の民営化を賛成するか反対するか」というワンイッシューで(しかも、同じワンイッシューでも「増税に賛成しますか」とか「自衛隊の海外派兵に賛成しますか」というワンイッシューではなく、「郵政民営化に賛成しますか」という大多数の人は反対するわけがないワンイッシューで)選挙を行なったからです。

これを良い面で見ると、自民党の支持基盤を破壊しただけではなく、日本の従来の選挙のスタイルを変えたと思います。もっかの日本の状況を見れば、どう見ても郵政民営化は優先度が高いとは思えない。その意味では民主党が言っていたことが正論です。今の日本は郵政民営化の前にやるべきことがたくさんあります。別に郵政民営化して、小泉総理がなにか儲かるというわけでもありません。郵政民営化を今やるというのは、小泉純一郎氏個人の趣味です。

しかしながら、今回の選挙ではっきりしたのは、それでいいんだということです。ドコドコ地方の利益とか、ナニナニ団体の利益とかではなく(さらには政治家個人の私利私欲ではなく)、「ワタシはコレコレをやりたい」という明確な個人の意志を有権者にストレートに語りかけるという手法でいいんだということです。そして、その主張に有権者はイエスもしくはノーと言う選挙というもの本来の姿になったのだということだと思います。小泉総理にあって民主党になかったものはこれです。岡田代表は小泉総理に「なぜ今、郵政の民営化なのか」という問いに答えることができず、民主党は自分の主張する政策がなぜ今必要なのかということを蕩々と論じることができました。しかし、この「蕩々と論じる」ということは、有権者にすればムダなことであって、「ワタシは郵政民営化をやる(以上、オワリ)」の方が論理はないのに説得力はあったというわけです。

有権者は小泉総理のこの戦略に自ら乗ったんだと思います。もう、今までのような利益調整・誘導型の政治家にはあきあきしていたのではないでしょうか。小泉総理にこれまでの政治家にはないものを感じるから、数多くの国民が小泉総理を支持しています。

では、これからはどうなるのか。小泉総理は任期限りでやめるでしょうから、この人はこれでよいと思います。小泉総理という人は体制の破壊者であって建築者ではありません。しかし、小泉総理の後も自民党はあるわけです。大多数の政治家は、小泉総理のような個性も性格もありません。もちろん、世の中には利益の調整や誘導は必要です。その意味で、従来型の政治家も残るでしょう。しかし、有権者のこれほどの大きな支持は、民主党を追い込んだだけではなく、実は自民党も追い込む結果になったとい思います。これでこの国がよくならなくなったら、有権者は今度は簡単に自民党を棄てるでしょう。今回の選挙は劇場選挙とかマスコミの影響が強いとか言われますが、有権者もまたしたたかでハラの中では計算していたと思います。支持母体が崩壊した自民党はこれからどうするのか。旧来の自民党に戻るのか。それとも都市部無党派層に支持者を持とうとするのか。いずれにせよ、この新しい現実に適応できる政治家がこれから大きく伸びていくでしょう。それは民主党も同じです。

これまでの政治と選挙のあり方を変えるきっかけを作ったのが小泉総理であり、それに乗っかり、おそらく小泉総理の思惑以上に過剰に反応したのが有権者です。つまり、政治家の強い意思と国民の過剰な期待が世の中を変えることができるのだということがわかったのが、今回の選挙だったのではないでしょうか。

そして、その流れが新しい政権に向かうべきであったのに、岡田民主党はその変化を見ることができなかったため自民圧勝になってしまったのだと思います。

国民の大多数と違って、マイクさんとrobitaさんのブログで次のようなコメントを残しました。

>>今回の選挙は正直に言って阿呆らしかったです。「刺客」だの何だの面白おかしい人物ばかりがとりあげられて。

それで選挙区では自民党候補へ、比例では"George W. Bush, Tony Blair"と書きました。後者は当然無効です。あんな気違い協奏曲がなければ比例でも自民党にしていましたが、あんな人物が立つような党には不信感を抱きました。世間にはそれが馬鹿受けのようですが。

郵政民営化がどうのマニフェストがどうのと言いますが、やはり普段からの言動が判断の基準です。それにしてもどの党も私のブログ記事(7月31日、8月15日)にあるような「レジームチェンジのモデル、日本」を主張した党は皆無でした。皆、どぶ板で視野が狭いんですかね?<<

わかりやすい身近な争点に絞り、世間の注目を集めやすい候補をたてるのは選挙戦術なのでしょうが、今回ほど気乗りのしない選挙はありませんでした。こうした無党派層は日本でも私一人なのかも知れません。

適時、的確な記事文書を感心と関心をもって読ませていただいております。読者の知的水準とか思想の成熟度とか関係なし、誰が読んでもごもっともと賛意を表します。このHPにアクセスする読者数はどのくらいなのか気になるところではございますが・・・
今後もご活躍ください。楽しみにしております。

コメントありがとうございます。
最近、仕事が忙しく更新が滞っておりますが、今月のヤマを超えれば、また頻繁に書き込みができると思います。もう少々お待ち下さい。

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