『ザ・ホワイトハウス(The West Wing)』
ここ数日間、ブログの記事を更新していないので、さぞや日々の仕事がたいへんで書く時間をとれないのであろうと思って頂いていたかもしれない。
ところがそうではなくて(いえ、もちろん、それなりに仕事はしていましたけど)、実は最近DVDで出たアメリカのTV番組の「ザ・ホワイトハウス」ファーストシーズンを見ていた。夜自宅へ帰ったらパソコンには向かわずに、DVDプレイヤーにつながっているディスプレイの前に座って、毎晩少しずつ見てきたのであった。実は、この番組についてさほど知らなかったのだ。この番組のことは、良質の政治ドラマで、民主党支持のマーティン・シーンが大統領を演じていることぐらいしか知らなかった。一度も見たことはなかった。なんかまあ、そういうドラマがNHKでやっているということぐらいしか関心がなかったのだ。これまでホワイトハウスを舞台にした連続ドラマ番組は何本かあったが、ドラマとしてはおもしろかったが、それほどのインパクトを受けることはなかった。だから、この『ザ・ホワイトハウス』も、そうしたこれまでのお決まりのホワイトハウス内幕もので、それに恋愛とスキャンダルがからむような、よくあるドラマなのであろうと思っていた。
ところが、とにかく評判が高いので、この番組について少し調べてみた。そうすると、なんかもうすごく良さそう。なるほど、これはもしかしたら見るべきドラマなのかもと思い、さっそくDVDを買おうとしたら、いつも行く渋谷のHMVにもなく、新宿のHMVにも置いていない(売り切れか?)。そこで最後の頼みの綱とも言うべき秋葉原の石丸電気へ行ってみた。すると、棚に1個あるではないか。売り場へ持っていくと、店頭のこれが最後の1個であったようだ。やはり、これは売れているのではないか。
というわけで見てみた。見てみたら、これはものすごくいいドラマであった。話の展開が、従来のドラマとは異なり「ER」のように複数の話が同時進行していて、台詞も大量の言葉をワンシーンで言っていて、いかにも「現場」といった感じがしまくりで。これこそ、自分が求めていたアメリカ政治ドラマではないかと思った。製作総指揮兼脚本のアーロン・ソーキンもインタビューで答えていたが、医者や弁護士やジャーナリストものドラマは多いが、こうしたホワイトハウスでに大統領とその側近たちのドラマはこれまでなかったと思う。この番組は、エミー賞の作品賞を4年連続で受賞し、アメリカのテレビ界で絶賛された番組である。
話は、大統領とその側近たちの日々の仕事、ほとんどそれだけを描いている。副大統領は少ししか出てこないし、そもそも大統領とは対立している。国務長官は出てこない。国防長官はちらりと出ているようなのであるが、どこにいたのかわからん。それほど扱いが低い。つまり、この物語は、大統領とその側近たち(だけ)の物語なのである。選挙では、候補者とスタッフたちがひとつのチームになっていることは知っていたが、大統領になった後でも、まあ、こういうもんなんだろうなと思った。このドラマはクリントン政権をモデルにしているそうだ。それにしても、外交担当のスタッフはいなくてもいいのか。
このドラマが良質なヒューマンドラマであるのは、政治と理念を扱っているからであると思う。一般的に、政治とは利益誘導であり、カネ次第であり、嘘つきであるというイメージがある。これは、世の東西を問わず、どこも同じだ。そして、実際の政治もまた多かれ少なかれそうしたものである。しかしながら、このドラマでは現実は現実として踏まえながら、民主党のジェド・バートレット大統領とその側近たちは、それでも理想や理念を目指していこうという態度を貫いている。このスタイルは、60年代のJFKの政治スタイルそのものであり、まっとうなリベラリズムの姿そのものである。
このドラマの中での、銃規制や最高裁判事の指名、死刑制度や人種問題、麻薬問題などに対する大統領と側近たちの対応と苦悩はリベラルそのものである。ちなみに、当然ながらアーロン・ソーキンはリベラルである。いわば、リベラルがこうであってほしいと考える大統領とその側近たちの姿がこの連続ドラマなのである。FOX-Newsを見て溜飲を下げる共和党支持者たちは、この良質な連続政治ドラマを見て感動することはないであろう。
僕は、次のようにアメリカ政治を捉えている。アメリカ政治とは、現実はこうであり、これはやむを得ない、しかし、その一方で我々が信じる理想や理念が歴然とあって、それと現実はこのように離れているということを自覚している。そして現実を認めつつ、それでもなおかつ理想に向かって進もうとする態度があると理解している。この理解は、極めて民主党的、リベラル的な政治理解であり、保守主義者や共和党はこう考えないであろう。しかしながら、僕がアメリカ政治に関心をもったのは、上記の理解をしているからである。そんなものは、共和党が二期連続で大統領になった今のアメリカでは少数派の意見であるのかもしれないが、アーロン・ソーキンは今のアメリカでそうしたまっとうなリベラルの政治スタイルをドラマ化してくれたことを高く評価したい。
とまあ、とにかく『ザ・ホワイトハウス』は絶賛したい。これは最高の政治ドラマである。で、これ以上書いていくと、ブッシュ政権と共和党はいかに間違っているか延々と書いていきそうなので、ここでやめることにする。
So, Mike, Did you see TV drama "The West Wing"?
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真魚さん、
残念ながらWest Wingについてはほとんど無知です。日本に戻ってきてから、ほとんどテレビを見る時間がありません。阪神タイガーズ、遊戯王、相撲、大河ドラマ、日曜朝のニュース番組… これ以外はほとんどテレビを見る時間がありません。(よくも、これだけ見ているなとも思えますが…)
MikeRossTky
Posted by: マイク | August 22, 2005 04:51 PM
>この理解は、極めて民主党的、リベラル的な政治理解であり、保守主義者や共和党はこう考えないであろう。<
そーなんすか、ほんじゃあワタスは(もし米国人だったら)民主党的、リベラル的と言うことになるんでせうか。ふーん・・・
ところで"The West Wing"って、2000年前後に放映されていたような気がするんですが、しかもクリントン氏役がジョン・トラボルタで。あれとは違うんでしょうか?あの時期はクリントンモノ、結構あったので混乱しているのかもしれません。あのトラボルタの南部弁がパーフェクト、しかもクリントン氏のアーカンソー弁に激似で驚いた記憶があるもので・・・
あの頃はまだホワイトハウス、見学出来たんですよね・・・ああ、あのwest wingにヒラリーと一緒にいるのかしらん、いや、それとも、例のインターン・・・と思ったものですが、今はまだ解禁されてないんでしょうか。
Posted by: kaku | August 22, 2005 07:27 PM
<<その一方で我々が信じる理想や理念が歴然とあって、それと現実はこのように離れているということを自覚している。そして現実を認めつつ、それでもなおかつ理想に向かって進もうとする態度があると理解している。>>
これが:
<<この理解は、極めて民主党的、リベラル的な政治理解であり、保守主義者や共和党はこう考えないであろう。>>
ほんまかいな?思想を持った政治家であればこの定言はあたりまえではないでしょうか?リベラル、保守、共産などの思想を持った政治家が民主主義の中で動くにあたって思っている理想と現実が違うのはあたりまえではないでしょうか?
独裁政治や共産党の配下での政治であれば別かもしれませんが。
保守や共和党が持つ考えをすべてネガティブにとらえず、もっと勉強してくださいね。”なんでも反対”リベラル思想から早く卒業してポジティブリベラルになってください。
MikeRossTky
Posted by: マイク | August 22, 2005 09:19 PM
kakuさん、
Yes!! 共和党には理念の迷いなんてものはない!!そもそも決まっているんだから、迷いなんてありません。迷ったらバイブルか開拓時代の村の価値観に従うのみです。だから共和党なんです。(どしん!!)(机を叩く音)
"The West Wing"はNBCで1999年に放送開始しています。ジョン・トラボルタが出たかどうかはわかりません。少なくともファーストシーズンには出ていなかったです。チャーリー・シーンの演じるジェド・バートレット大統領は演説の声がケネディに似ていると思いました。母音を甲高い声で出すボストンなまりっぱかったけど。ニューハンプシャー州の知事をしていたという設定になっているので、マサチューセッツじゃないんですけど。
EastWingは今一般公開していなかったんでしたか。
Posted by: 真魚 | August 23, 2005 01:08 AM
この番組はよく観ていました。内容は確かにリベラルの色彩が濃いのですが、それでも随所に覇権国家アメリカの姿が映し出されていました。
反グローバル派の市民運動との対立や核開発疑惑のあがったシリアへの攻撃の決断が迫られるシーンは、まさにそれです。どれほどリベラルな大統領であろうと、世界帝国の指導者が反グローバル運動や反戦運動の活動家と同じ考え方では政治の舵取りはできないという事実をはっきりと示してくれます。
これはアメリカに限ったことではありません。グラッドストーン政権下のイギリスでも小英国主義を旗印にしていましたが、結局はエジプトやスーダンへの出兵といった帝国主義政策をとらざるを得なくなりました。
結局のところ、グローバル・スパーパワーとして自由主義的な世界秩序を守るという立場には保守もリベラルもないということです。そう考えると、ブッシュ政権下での現実をリベラル派大統領ならどこまで変えられるのか?それができないからこそ、ケリーのflip flop現象が生じたのではないですか?
Posted by: 舎 亜歴 | August 23, 2005 03:25 AM
舎さん、
私はまだファーストシーズンしか見ていないのですが、この中でシリア上空で撃墜された米軍機への報復としてバートレット大統領は民間人が被害を受ける可能性は十分に高いが十分な被害を与えることができる報復攻撃案を選択しようとする話があります。その中でバートレット大統領が「なぜローマ市民が安全であったのか。それはローマ人に被害を与えると、ローマはすざまじい報復をするということを周辺の国々に知らしめていたためである」と語るセリフがあったと思います。この番組が放送された時期は1999年で2001年の9.11の前です。この時から、いわばテレビの政治ドラマにこうしたシーンがあったことに少し驚きました
しかし、ドラマでは、バートレット大統領は最後はその案を選択しません。しませんが、それはそれで苦渋の選択をします。ファーストシーズンの最後の方になってくると、バートレット大統領は国民に弱腰であると評価されていることがわかります。シーズンの最終回で大統領は銃で撃たれます。
合衆国大統領が市民運動家と同じでは国家の運営はできないのは当然のことです。しかしながら、もう一方で合衆国大統領は民意の反映です。帝国主義的行動を欲しているのは大統領でなく世論ではないでしょうか。
ただ単に民意に従うだけでは優れた指導者ではありません。かといって民主主義である以上、民意を完全に無視するわけにはいきません。むずかしいところです。しかしながら、私は政治とは現実がこうであるから、こうするのは当然である、やむを得ないと判断するのではなく、そうした部分は持ちながらも、なおかつその現実をより良きものに変えていこうとするのが政治であると考えます。そして、アメリカ政治にはそれがあるものと信じています。
Posted by: 真魚 | August 24, 2005 01:55 AM
>>合衆国大統領は民意の反映です。帝国主義的行動を欲しているのは大統領でなく世論ではないでしょうか。
ブログを通じてアメリカ人の意見を読むとそれは違うようです。良くも悪くも、多くの人は帝国主義的な使命感を抱いてはいないようです。むしろ、海外出兵を自衛行動以外の何物でもないと固く信じていることに驚かされました。9・11以降の情勢ではこう考えるのも理解できます。
帝国主義的な意識が強いのは、主流派の学者、政策家集団などのようです。ネオコンにそうした意識が顕著ですが、中道派やリベラル派にもそうした意識は見られるようです。
ともかく学者や政策エリートの著作や論文と一般国民の意識は大きく違うようです。むしろ同じ保守派でも、一般国民の深層心理は海外派兵に批判的なパトリック・ブキャナンの方が近いのかも知れません。
ただし、私は良い帝国主義なら多いに結構と考えています。元々、覇権理論がバックグラウンドにある私にとって、アメリカが大英帝国の後継者として力による平和と自由を推し進めることに異存はありません。
しかしながら、
>>私は政治とは現実がこうであるから、こうするのは当然である、やむを得ないと判断するのではなく、そうした部分は持ちながらも、なおかつその現実をより良きものに変えていこうとするのが政治であると考えます。
これには同意します。国内政治に比べると国際政治では力の論理が優先されがちですが、それでも理念やイデオロギーの役割を無視できません。そもそも、現実をより良きものに変えようとするのが理念だと思っています。これこそ、まさに保守もリベラルも違いはないところです。
Posted by: 舎 亜歴 | August 24, 2005 11:14 PM
>>合衆国大統領は民意の反映です。帝国主義的行動を欲しているのは大統領でなく世論ではないでしょうか。
ブログを通じてアメリカ人の意見を読むとそれは違うようです。良くも悪くも、多くの人は帝国主義的な使命感を抱いてはいないようです。むしろ、海外出兵を自衛行動以外の何物でもないと固く信じていることに驚かされました。9・11以降の情勢ではこう考えるのも理解できます。
帝国主義的な意識が強いのは、主流派の学者、政策家集団などのようです。ネオコンにそうした意識が顕著ですが、中道派やリベラル派にもそうした意識は見られるようです。
ともかく学者や政策エリートの著作や論文と一般国民の意識は大きく違うようです。むしろ同じ保守派でも、一般国民の深層心理は海外派兵に批判的なパトリック・ブキャナンの方が近いのかも知れません。
ただし、私は良い帝国主義なら多いに結構と考えています。元々、覇権理論がバックグラウンドにある私にとって、アメリカが大英帝国の後継者として力による平和と自由を推し進めることに異存はありません。
しかしながら、
>>私は政治とは現実がこうであるから、こうするのは当然である、やむを得ないと判断するのではなく、そうした部分は持ちながらも、なおかつその現実をより良きものに変えていこうとするのが政治であると考えます。
これには同意します。国内政治に比べると国際政治では力の論理が優先されがちですが、それでも理念やイデオロギーの役割を無視できません。そもそも、現実をより良きものに変えようとするのが理念だと思っています。これこそ、まさに保守もリベラルも違いはないところです。
Posted by: 舎 亜歴 | August 24, 2005 11:15 PM
あのー、どーでもいい指摘なんですが、大統領役は“チャーリー”・シーンではなくて、父の“マーティン”・シーンではなかったでしょうか?
いや、あの人が、大統領選の時に大統領に扮したイヤミたっぷりなCMを主演したのを良く覚えているもんで・・・
ちょっと調べてみましたが、マイクさんはこの番組お好きじゃないかも?と思ったり。
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%B6%E3%83%BB%E3%83%9B%E3%83%AF%E3%82%A4%E3%83%88%E3%83%8F%E3%82%A6%E3%82%B9
Posted by: kaku | August 25, 2005 09:20 PM
Oh, My GOD!! そうですね。間違えました。(^_^;)
チャーリー・シーンは最近映画で見ませんね。
Posted by: 真魚 | August 25, 2005 10:13 PM