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August 11, 2005

うわっつらだけの民営化

 マスコミは郵政民営化による今回の国会の解散総選挙に沸き立っているが、僕はどーも、この小泉総理がやろうとしている郵政事業の民営化なるものがよくわからない。本当に、郵政事業を民営化できるのであろうか。いや、民営化しますというのならば、そりゃあ結構なことですね、頑張ってくださいと賛成するしかないのであるが。

 まず郵便について考えてみよう。いわゆる過疎地への郵便配達業務である。窓口ネットワーク会社なる新会社が設立され、全国津々浦々、いかなる場所も従来通りの配達ができますというのは、まことに結構なことである。しかし、ホントにこれが可能なのか。採算の合わない過疎地へも配達するという、そのコストはどのように回収するつもりなのか。郵便なんて、今や年賀状かダイレクトメール等しかないのだ。どう考えても、収益を上げることができそうもない商売である。そもそも、全国津々浦々のユニバーサルサービスは、民営化にはなじまない。この民営化できそうもない事業を、あえて民営化しようというその意味はなんであるのか。閣議決定の「郵政民営化の基本方針」には「ユニバーサルサービスの維持のために必要な場合には、優遇措置を設ける。」という一文があるが、これはなにか。税金負担ってこと?

 次に郵貯について。つまり銀行業務の観点で考えてみよう。銀行業務とは、顧客からお金を借りて、そのお金を運用し、その利益を自分たちで使い、顧客に金利として払うというサービス業である。しかしながら、これまで郵貯は、運用とは国債を買うことぐらいで、本格的な運用などまったくしてこなかった。貸し出すには、それなりの審査や査定を行う専門家の組織集団でなくてはならないはずだ。これから、そうした専門職集団になるということなのだろうか。つまり、貸し出す能力、運用する能力がない郵貯が「金融業」として、今後やっていけるのだろうかということだ。

 なにしろ、240兆円ものお金を郵貯は持っているのである。このお金を運用し、世界の金融業と競争しなくてはならないのだ。大体、日本の銀行そのもののが、この運用業務において欧米の金融業とは比較にならないほど遅れている。ましてや、これまで理財局にお金を入れるか、国債を買うということしかやってこなかった郵貯が、これからハイ変わりましたと、欧米の金融業と激烈な競争の第一線に立とうというのである。それが民営化するということであるはずだ。ところがなんと、新しい郵便貯金会社では「これまでの郵便貯金や簡易保険の契約は、政府が引き続き保証し、その資金は安全に運用されます」という。では、なぜ民営化するのだろうか。その意味がわからん。

 決済機能も銀行に太刀打ちできるとは思えない。というか、民営化しなくても、民間銀行に委託すればよいであろう。窓口は、民間銀行やコンビニに置けばいいではないかと思う。

 そもそも郵政のなにが問題なのか。現状では、郵貯が政府や族議員らの資金源になっているため、これをなくさなければならない。そのためにも、新会社は政府との関係があってはならないはずだ。しかしながら、郵便貯金や簡易保険は政府が保証し、安全に政府が運用しますというのだから、なにも変わらないではないか。郵貯の特権的立場は変わらず、民業を圧迫し続けるのである。

 つまり、小泉総理は郵政を民営化すると言っているが、その内容は完全民営化ではない。では、なぜ完全民営化をしないのか。それは郵政事業は、完全民営化などすれば、コストがかかりすぎて成り立たない事業だからである。もちろん、今の郵政事業は改革しなければならない。そのためにも、今の郵政事業をスリムにするためには、国営のままで、配達業務は民間に委託するなどの方法もあったはずだ。

 しかしながら、それでも民営化をやるというのならば、よーし、じゃあやってもらおうじゃあないかというわけで。

 郵政を民営化するというのならば、本来、以下の5点を明確にすべきであった。

(1)特権的な立場で民業を圧迫することはしない。公平な競争の原理を守る。
(2)預金や保険の政府保証は一切しない。
(3)ユニバーサルサービスのコストは新会社が負担する。国は一切の負担をしない。
(4)政府の持ち株分は一切なしとする。
(5)競争に負けて倒産するのならば、倒産する。なにがあっても国民負担には絶対にしない。税金による救済は一切しない。

 そして、これらの条件があっても、十分収益を上げることができる国際的な競争力を持った民営企業に郵政がなるには、どうしたよいのかという議論が行われるべきであった。

 しかしながら、現実は、そうした議論になることもなく、「民営化とはなにか」という出発点そのものから大きく離れてしまった。そして、なにがどうなるわけでもなく解散総選挙になり、「自民党の分裂か」とか「刺客を放った」とかわけのわからない政治騒動になってしまった。民営化についての確固たる原理原則があって、国民の前でオープンな民営化論争をしたわけでもなく。この情勢下では、あなたは郵政民営化に反対ですかと問われれば、反対ですと言うわけがない。であるのならば、郵政民営化の是非を争点にして国民投票を行えば、自民圧勝は目に見えている。なぜ、かくも煽り立て、単純化、短絡化した方向に進もうとしているのだろうか。

 上記の条件を満たさない民営化など、うわっつらの民営化でしかなく、うわっつらだけが民営化した郵政事業でやっていけるはずもなく、結局は、我々国民の負担になるのではないだろうか。

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Comments

「郵政民営化法案は廃案となったが、これは手取りの時期が少し延びたに過ぎない。ほんの少し待てば、われわれは3兆ドルを手に入れることができる」

"預金や保険の政府保証は一切しない"

今、民営去れている銀行、保険は政府の保証がある。なぜ郵政民営化した銀行、保険には一切の保証をつけたくないのですか?

MikeRossTky

"これまで郵貯は、運用とは国債を買うことぐらいで、本格的な運用などまったくしてこなかった。"

特殊法人の事業資金として使われてきたので、”国債を買うことぐらい”はあまりにも簡素な発言ではないでしょうか?

家の近くの幼稚園は確かに”郵便貯金から借りたお金を借りて造られた”と書かれているのですべての”融資”が道路公団などに行ったわけではないのですが…

家の近くには500坪ほどの土地に郵便局員向けの社宅があります。2階建ての古びた建物です。この土地を売ってマンションを建てれば結構なお金になるはずです。今の郵便局の運営では土地の売却で得る利益に対して税金はかからないのでは?

今、郵便局は黒字です。固定資産税を払っていません。政府が郵便局を民営化した時に、事業が成功すれば、税金も入ってくるし、株主であれば配当も入ってきます。だから”政府の持ち株分は一切なしとする”も利があまりないとおもいますが。

MikeRossTky

ペイオフのことでしょうか。
「郵便貯金や簡易保険の契約は政府が保証し、その資金は安全に運用されます」がペイオフのことを意味しているとはとても思えませんが。

税金が入るのならばそれでよいのでは。
政府が株主になるというのは、実質的に政府の管理下にあるようなものです。

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» 「郵政民営化」についてつれづれと考えると [地球が回ればフィルムも回る]
「民主党は「郵政法案」の対案を」 という文を書いたものの、どうもこの文章自体、小泉首相側の思惑に乗ってしまっているような気がするなあ。 なんだか、癪。 今回の解散は、小泉首相側が、何か、反対派を押し切って郵政民営化をなんとしても進めるためにおこなったものであり、郵政利権絡みを切ろうとしていて立派ではないかという話に下手をするとなるわけだが(というか、どうも国民の雰囲気はそういう風になっている?)、反対派の議員が言うことももっともだと思うところはあるんだけどなあ。 そもそも反対派は、別に将来的に... [Read More]

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