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May 14, 2005

手塚治虫『地上最大のロボット』を読む

 小学館ビックコミックスで、月に一回の連載をしている浦沢直樹の『PLUTO プルートゥ』の評判が高いので、どれどれとコミックスで今出ている第1巻と第2巻を買って読んでみた。なるほど、これはいい。この作品は、手塚治虫の『鉄腕アトム』の中のエピソード「地上最大のロボット」を原作にした作品で、浦沢直樹が現代的な視点から物語を描き直している。ロボットというか、アンドロイドについては、プロダクションIGのテレビ版『攻殻機動隊』や押井監督の映画『イノセンス』でかなり深く扱われていたが、鉄腕アトムに注目することは思いつかなかった。手塚治虫の作品では、『ブラックジャック』などは今読んでも十分におもしろく、かつ考えることがある作品であるのだが、アトムはそのかわいらしいキャラクターのせいか、どーもシリアスな作品と思うことなく、ただ単にスルーしていっただけだと思う。大体、アトムについては、僕はテレビで見ていただけで、マンガの方のアトムについてはほとんど読んだことがない。ロボットについても、アトムよりもキカイダーやマジンガーZの方が親近感がある(ガンダムや汎用人型決戦兵器エヴァンゲリオンにいたっては親近感以上のものを感じるのだけど)。ようするに、アトムは幼少期にテレビで見ていたというだけであって、今ひとつ親しみ感がなかったのであった。

 『PLUTO プルートゥ』は、読んでおもしろいと思った。とにかく、アトムやお茶の水博士やウランちゃんなどと言ったおなじみのキャラが登場するが、当然ならながら浦沢直樹のキャラクターになっている。浦沢直樹と言えば、『YAWARA!』や『MONSTER』が有名であるが、僕がよく読んだのは『MASTERキートン』だった。その浦沢直樹が『鉄腕アトム』をリメイクするのだ。

 さて、1巻、2巻と読んでみて、手塚治虫の原作が読みたくなった。しかし、アマゾンでも在庫切れになっていて、そう簡単には入手できないようだ。今日、神田神保町のマンガ専門店にふと入ってみたら、『PLUTO プルートゥ』の大型本では手塚治虫の『地上最大のロボット』が一緒にセットなって販売されていたではないか。値段が税込みで1800円という高さなので、ちょっと考えたが、ええーい、買ってしまえというわけで買ってしまった。こんなんだから、いくら働いてもお金が貯まることはない(きっぱり)。

 そこで、手塚治虫の『地上最大のロボット』である。中近東のとある国の王が、世界の王になろうとしてできなかった野望をロボットに託し、大金を注いで世界最強のロボットを科学者に作らせる。プルートゥと名付けられたこのロボットは、世界の各地にいる合計7体の最高技術で製造されたロボットを破壊することを命じられ、それを確実にこなしていく。興味深いのは、プルートゥはただ単に殺戮を行うマシーンではなく、倫理的な判断もできるロボットであるということだ。一度アトムに助けれられて、その恩を返すという義理も人情もあるロボットなのだ。しかしながら、プルートゥは7体のロボットを倒すことを命じられている以上、その命令に従うとしている。プルートゥやアトム以外にも、この物語に出てくるロボットはみなどれも「人間らしさ」を持っている。この物語は、世界の王になりたかったという一人の人間の欲望が、数多くのロボットの「生」を奪っていくという物語である。ラストは、とりあえず事態は収拾するが、後に残るのは荒涼たる破壊の跡と、悲しみとやるせなさというラストで終わる。唯一、アトムが希望らしきことを語るが、それはただの願望にすぎず、人間はまたこうしたことを繰り替えすということをよく理解していたのが手塚治虫であった。

 浦沢直樹の『PLUTO プルートゥ』では、ロボット(ちなみに、今の時代のSFものは「ロボット」とは言わずに、「アンドロイド」と呼ぶと思うが、あえて「ロボット」という言葉を使っているところに原作へのオマージュを感じる)の対比としての「人間」とはなにかということがさらに深く追及されている。中央アジアのペルシア王国の国王ダリウス14世は独裁体制を築き、近隣諸国を圧倒的軍事力で侵略し中央アジアを支配しようとしていた。これに対し、世界のリーダーを自負するトラキア合衆国は、国連で「大量破壊ロボット製造禁止条約」を呼びかけ、ペルシア王国に大量破壊ロボットが隠されていると主張し、調査団を派遣する。この調査団の名前の「ボラー調査団」の「ボラー」の意味や、ペルシア王国のロボット兵団を作った天才的科学者の通称が「ゴシ博士」というのも原作を読むとわかる。そして、やがてペルシア王国との戦争になり、数多くの罪のない人々やロボットが殺され破壊されていったという状況の上で物語は進んでいく。第2巻で、アトムはプルートゥのものらしき人工知能から発信された通信に「巨大な苦しみ」を感じる。これが何であるのか。『地上最大のロボット』を読んだ今、なんとなくわかるような気がする。

 結局、ロボットたちが本当に戦うべき相手とは誰なのか。なにがロボットにロボットの殺戮をし向けているのか。浦沢直樹は、手塚治虫のこの名作をどのように表現していくのか。今後楽しみだ。

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Comments

こんにちわ。
「鉄腕アトム」は子どもの頃リアルタイムで読んでました。従兄の家でたぶん少年雑誌の連載でだったと思います。
結婚後、子どもに読ませるために講談社KCスペシャル版で1集~7集全部そろえました。ぶ厚い本で1987年版で一冊580円です。
ロボット同士はなんの恨みもないけれど、人間のための代理戦争という設定ですよね。
ところで、ロボットとアンドロイドの定義ですが、ロボットは産業用も含めて環境に応じて自分で動作を決められる自動機械全般で、アンドロイドはほとんどヒトと変わらない外見を持つロボットと、はっきりしているのだと思っていました。だから、アンドロイドはロボットに含まれるのだと。

Posted by: robita | May 15, 2005 at 02:31 PM

robitaさん、

「鉄腕アトム」の連載マンガをリアルタイムですか。僕は、テレビで白黒のアトムのアニメを見た記憶がありますが、あれは再放送だったのかどうかわかりません。

その一冊580円のが、今入手するのが困難になっています。僕もそれが手に入るのならば、1800円も出すこともなかったのですけど。「地上最大のロボット」はかなり反響があったそうです。浦沢直樹はこれを読んで漫画家になろうと思ったそうです。今、アメリカでは軍事用ロボットが実用の段階にきています。手塚治虫の懸念が現実になる時代になりました。

アンドロイドはそうですね。外見だけではなく思考や行動なども人間同様であるものをアンドロイドと呼ぶようです。愛地球博でも数多くのロボットが出展していますが、アンドロイドはまだ誕生していませんね。

Posted by: 真魚 | May 15, 2005 at 11:18 PM

ジンバブエの野生動物を独裁者から救おう!

いきなり、本文とは直接関係のない内容で申し訳ありません。実は、私のブログにジンバブエの独裁者、ロバート・ムガベが自らの悪政を棚に上げて、国民の飢えを救うと称して野生動物を虐待しているとの訴えがありました。

詳細は http://feoline.blogspot.com/2005/05/where-is-humanity.html#comments です。

とにかく、悪政を叩き野生動物を救いたいという思いを抱いている方々、このメッセージを友人や有力者に回覧してください。

本文とは関係のない投稿ですみません。ただ、本件は手塚治虫氏の漫画なら格好のテーマとは思います。では、少しでも関心のある方は宜しくお願いいたします。

Posted by: 舎 亜歴 | May 17, 2005 at 01:20 AM

モザンビークと南アフリカに国立公園があってもジンバブエにつながっているので、そこで動物が殺戮されるというのは、なんのための国立公園かわからないですね。

Posted by: 真魚 | May 18, 2005 at 01:16 AM

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