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March 10, 2005

映画『ローレライ』を見た

 先日の土曜日、樋口真嗣監督の映画『ローレライ』を見てきた。まず見るに当たっては、これは小説とは別の話なんだと理解することにした。これは小説とは違うといちいち思っていたら、なんのための映画なのかわからん。小説は活字がえんえんと続くので(あたりまえか)、読んでいるこっちも思弁的、思索的になってしまうものであると思うが、映画は楽しんでナンボのものだ。映画で、あまり重ったるいことを考えてはイカン。さらに、『ローレライ』を見る前に、樋口真嗣と福井晴敏の対談本『ローレライ、浮上』講談社(2005)を読んだ。これを読むと、ガンダムの総集編みたいな内容展開にしていると書いてある。そうか、そーなのか。『劇場版ガンダム三部作』なのか、『地球光』『月光蝶』なのか。よーし、よーし、よーくわかった、と、なにがわかったのかよくわからないが、とにかくそーゆーことで、事前準備バッチリでいざ見に行った。公開初日であったのだけど、昼間は仕事をしていたので、池袋で深夜のレイトショーで見た。

 しかしまあ、これは戦争映画というより特撮映画、もしくは昔あった空想科学物語モノだなと思った。この映画について誰もが書いていることであるが、僕もこれは太平洋戦争を題材にして、実写で宇宙戦艦ヤマトとガンダムをやったような内容だったと思う。実際のところ、小説でもそうだったわけであるが、小説の場合はさらにいろいろな物事が書き込まれていて、それがそれなりにリアルさを出していたと思う。しかし、こうして映像で小説の基本的なストーリィのみを出されてしまうと、ここまで荒唐無稽な話であったのかと思ってしまった。

 ただし、僕もまた宇宙戦艦ヤマトとガンダムを見て育った世代なので、これはこれで、こういうもんなんだと入り込むことができた。このへん、樋口監督も福井さんも僕といわば「同世代」であり、抵抗全然なし。福井晴敏がパンフの中で書いていたが、例えば現代の海上自衛隊もの(例えば『亡国のイージス』とか)で、こうしたファンタジーをやってしまうと、もはやマンガ以下になるであろうが、第二次世界大戦ものであるのならば、空想科学モノ的な物語は可能だ。むしろ、こうしたジャンルが、日本映画で多く扱われてこなかったのが不思議だ。かつてエンターティメント的観点から戦争を扱ったのは、アニメであって日本映画ではなかった(まったくなかったわけではないが)。敗戦国日本では、戦争を「エンターティメントにする」ということ自体が許されるものではなかったのだろう。しかしながら、それを堂々とやり、なおかつ戦争の持つ不条理さを表現し得たのが富野監督のガンダムであり、それを見て育った世代が、同じような手法で太平洋戦争の空想科学物語映画を作ったのが『ローレライ』であった。(だから、本格的軍事映画を期待して見ると、裏切られるから期待しないように。)

 ストーリィの展開は、小説を読んでいないとわからないところがあるんじゃあないかなと思った。見終わった後で、パンフに上映時間が2時間8分と書いてあったが、そんな長く感じなかった。なんか、すごく早く終わったような気がする。さすがガンダム総集編的編集であるが、展開が全編にわたってフラットなトーンになっている感じで、起伏感に乏しい。最後の戦いのシーンは、なにゆえもっと大規模な戦闘シーンにならなかったのか。ここまで持ち上げておいて、これで終わりではそれはないだろうと思った。予算の都合なのだろうか。

 いくつかの印象的なCGの風景描写があった。月が煌々と照らしている夜の海上を「伊507」が進んでいく風景は美しかった。ほんの数秒程度しか画面に出なかったのであるが。それと、8月6日朝、広島の(後に、原爆ドームと呼ばれる)産業奨励館の上空の晴れた空を一筋の飛行機雲が流れていく風景のシーンがあって、これを見た時、僕はちょっと衝撃を受けた。この風景は、半世紀前のあの時の、あの時間の、あの場所で、あの空を見上げた人がおそらく見たであろう最後の風景であったに違いない。この風景は、実際にはこの世に残っていない風景描写である。それがこうして一瞬だけなのであるが見れたことで、ちょっとしたタイムスリップ的感覚になった。

 「大人の起こした戦争で、若者を頼りにしてすまなかった。俺たちは自分以外の何か見えないものに身を委ねる生き方しかできなかった」という意味の絹見艦長のセリフがあったように思う。この言葉を聞いて、あっそうだったなと思った。特攻隊員というのは、少年兵であったことを忘れていた。あの時代の大人は、若者を特攻兵器の操縦者として使っていた。この特攻について、小説の方ではそれほど深く書かれていなかったと思う。映画では、絹見艦長はかつて特攻攻撃を認めないことがあったため、海軍内部では「腰抜け艦長」と呼ばれていたというセリフがある。映画では、特攻というものにフォーカスをあて、そんなものに若者を使う大人たちは一体なにをしているのかという意味があったように思う。絹見艦長たち「伊509」の大人たちは、そうした時代そのものを抱えて自ら海底に沈む道を選択し、若い2人に生きていくことを促した。浅倉も、ある意味では絹見と同じで、こっちは東京もろとも「自殺」しようとしたわけで、その方法があまりにも過激だっただけだ。

 これを見ながら、平成の今の時代だって、ワカイモンを犠牲にして、大人たちは自己の安泰を図っているではないかと思った。太平洋戦争で生き残った子供たちが作った戦後日本であるが、今日、またもや大人たちは若者を犠牲にしようとしている。しかも、そうしたことをやることで、なんらかの現状の打開になるのかというと、そんなものはまったくたく、明るい未来はないという意味で、あの時代も今も同じだなと思った。今の時代は、大人が始めた戦後日本の経済的繁栄というもののために、今の若者は犠牲になっているのではないか。そんなことをふと思った。

 役所広司が熱演している。こうした映画にはお決まりの仲代達也や丹波哲朗が出なくてよかった。パウラは綾波レイ(ってゆーより、フォオ・ムラサメ?)なのであるが、綾波には似ていない香椎由宇で、これはこれでいいかも。あと、ワタシとしては、ですね。妻夫木聡はどうでもよくて、あの「リリィシュシュ」の忍成君が出ているではないですか。ほんの少ししか出ていないのだけど。それと、非常によかったのが軍医役の國村隼。この人はいい役者だ。いつも名脇役の人である。最後の方の、時岡がライカを渡すシーンでホロッとなってしまった。いい軍医さんでした。柳葉も例によって中間管理職が似合う。石黒賢はどうでもよし。阿川佐和子は、なにゆえこの人が出たのか。父親が海軍関係の作家だからなのか。よくわからん。堤真一の浅倉大佐は、みょーにはまっていた。こういうタイプは、帝国陸軍にはいなかったな。しいて言えば、元関東軍参謀の石原完爾中将がいたがルックスが全然違う。

 全体的に見て、印象に残るいい映画だったと思う。同じくCGを多用していた篠田監督の『スパイ・ゾルゲ』(本木雅弘の演じる尾崎秀実以外見るものなし)より遙かにいい。ただ、浅倉大佐がなぜこうしたことをしたのか。絹見少佐やパウラの心情の変化などは、映画だけではわからないと思う。この映画は、人物の心理を映像で表すよりも、派手な特撮の方が主体になってしまっている。しかしながら、逆に、広島の上空を飛ぶB29の飛行機雲の風景や、月夜の海の上を進む「伊507」の光景や、アメリカの駆逐艦から魚雷やヘッジホッグが発射されるシーンのスピード感や、潜水艦の内部の閉塞した雰囲気などは、活字ではなかなか表現し得ないものだ。小説も映画もどっちも良し。

 というわけで、冒頭で小説と比べないと書いたワタシであったが、しっかり比べているじゃん。

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Comments

こんにちは。コメントありがとうございます。そうかぁ・・・空想科学モノだと思えばいいんですね~ ガンダムだと思えば・・・ それにしてもちょっと心理描写というか、その辺が弱いような気はします。ライカのシーンは確かに良かったかと思いますけどね~
小説を読んでいればまた違った感想になったのかも知れませんね! ではでは。

Posted by: VAIOちゃんのよもやまブログ | September 26, 2005 at 04:13 PM

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