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March 04, 2005

『終戦のローレライ』を読む その3

 というわけで、読了しました。

 潜水艦の戦記物小説であるわけだが、あの戦争とその後の60年間の日本の姿を顧みるような作品だった。そして、読み終えてみると、不思議にこれからの時代に希望を感じていることに気がついた。あの戦争と、それに続く戦後60年間の時代の意味を正面から見据えた作品だった。

 読了した今、感じることは、ようするに、「まだ終わっていないんだな」ということだ。なにが、まだ終わっていないのか。それは、ある意味においては、あの戦争そのものがまだ終わってはいないのであり、戦後の日本民族の復興ということが、まだ終わっていないのだということだ。戦後の日本について、浅倉大佐が言ったことは正しい。確かに、日本はこうなったし、日本人はこうなった。しかし、これで終わりではないのだ。浅倉が言う、戦後、日本人は「百年もすれば国の名前も忘れた肉の塊になる」で、オワリではないのである。

 あの戦争では、厖大な人々が亡くなった。戦火の中で生き残った人々が、この戦後日本を作った。この戦後日本に対して、浅倉のような見方をすれば、確かにそれはその通りであろう。しかしながら、食べるものもなく、あたり一面焦土と化した状況の中で、彼らはまず物質的に国を復興させること以外のなにができたであろうか。あの時代の国際社会の中で、アメリカに依存せざるして、どのように国際社会の中での位置を保つことができたであろうか。

 『終戦のローレライ』のラストは、「伊507」から離れたもう1人の主人公の若者が、その後の戦後の日本社会を生きていき、歳老いた老人になった今、あの戦いで死んでいった人々の意思を受け継ぐことができず、その後の人生は自分の生活を守って働いていくだけで精一杯であったことを悔やみ嘆く。

「自分という人間がいようがいまいが、この国にはなんの影響もなかった。目の前の仕事に追われて、雑事に振り回されて、それだけで精一杯だった。自由が腐ってゆくのを、指をくわえて見ているだけだった。こんなちっぽけな人間を生き延びさせるために、艦長たちは死んでいったのか?君の兄さんや掌砲長、機関長、軍医長たちは死んだのか?そうだとしたら、あんまりにも間尺が合わなさすぎる。清水や河野たちに、<伊507>のみんなに、おれはなんと言って詫びたらいいんだ・・・?」

 しかし、この若者と共に「伊507」から離れ、共に戦後の人生を歩み、共に老いて老婆になった女性は言う。「詫びることなんかないじゃない。」と。「あなたがずっと感じてきた痛みも、いま流している涙も。そういうことも全部ふくめて、いま私たちは生きている。きっとね、それが大事なことなのよ。」

 戦争で死んでいく者たちもいれば、生き残る者たちもいて、やがてそこから新しい命がはぐくまれ、そこに希望が生まれる。この物語の本当の主人公とも言うべき、数奇な運命を辿ってきたこの女性は、その人生の終わりに次の世代に未来の希望を託す。

 ここに作者のメッセージを感じる。あの戦争で死んでいった者たちの意思を継ぐのは、これからこの日本社会に生きる我々なのであろうと思う。この世の中は、カネがすべてで、即物的で、おもしろくなんともない社会であり、これが戦後日本そのものなのだけど、だからと言って、ここで終わってしまっては、浅倉が言った通りになるだけだ。つまり、まだ戦後は終わってはいないのである。今までとは違う戦後日本を、これから作ることができるはずだ。2005年、平成17年になっても、日本民族の復興はまだ途中なのだ。福井晴敏の『終戦のローレライ』は、読み終えてそう感じることができるいい作品であった。

 それにしても、これほどの小説をどのように映画化したのか。
 うーむ、期待するような、なんかコワイような・・・・。

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