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March 27, 2005

世界の民主化をやるわよ

 ライス国務長官は、19日にそもそも上智で何を話したのだろうかと思い、どこかにスピーチ全文はないものかと探してみたら、在日アメリカ大使館のサイトにあった。

 読んでみて、うーむとうなった。なんかこのスピーチは、まるで19世紀から20世紀にかけてのセオドア・ルーズベルトかウッドロー・ウイルソンのスピーチを読んでいるように感じた。というか、このへん細かく言うと、1899年のジョン・ヘイ国務長官の「門戸開放宣言」から変わっていないなと思った。つまり、アメリカという国の外交政策は、大ざっぱに言うと南北戦争以後、全然変わっていないのである。アメリカというのは、変わらない国であったのだ。昔っから、アメリカはアジアに対して同じことばかり言っている。

 "Japan has set the example for political and economic progress in all of East Asia, helping to anchor the successes of the Republic of Korea and Malaysia, of Thailand and the Philippines, of Indonesia, of East Timor and of Mongolia. Japan has truly led the way."などを読むと、マッカーサー元帥が60年後の今の日本にやってきたのならば、こうしたことを言うのではないかと思った。日本は、アメリカによる他国の「民主化」が「成功」した輝かしいサンプルなのである。アジアの「未開国」である日本を「民主化」することは、ダグラス・マッカーサーの宗教的な理念であった。このへん、ライスは日本でこういうことを言うのならば、John Dowerの「敗北を抱きしめて」を読んでいるんだろうなあと思うが、読んじゃあいないであろう。

 つまり、このスピーチには、あるひとつの理念が濃厚にある。その理念とは「アメリカは世界を民主化しなくてはならない」という理念である。ライス国務長官が上智大学で語ったことは、「牛肉問題」とか、日本とアメリカは"a Strategic Development Alliance for our two countries"であるとかいう些細なことではなく(まー、牛肉問題は些細な問題じゃあないけどさ)、ここで語られたことは「世界を民主化する」ということなのだ。極端に言えば、日本でやった「民主化」を、アジア全域からイスラム諸国にまで「やるわよ」と言っているのである。

 であるのだから、このライスのスピーチに対して、「世界を民主化する」ってどうよ、という視点がマスコミになくてはならないのだが、日本のマスコミは、「牛肉問題」と「北朝鮮問題」しか取り上げず(つまり、自国のことだけしか関心を持たない)、ライスが語った、インド、中国、モンゴル、韓国、北朝鮮、フィリピン、台湾、マレーシア、シンガポールなどを包括したアジア全体の安定と発展と民主化という課題を取り上げるところはなかったように思う。

 "Every Asian nation, from Pakistan to Japan, understands our common interest in assuring a world free of terrorism, and virtually every Asian nation, too, has been willing to do its part to bring such a world into being."という言葉の「パキスタンから日本まで」という見方に注目しなくてはならない。こうした枠組みでアジアを見る視点を日本人は持っていない。

 ちなみに、戦前の日本のマスコミも、アメリカでの排日移民法とか対日経済封鎖とかいった個々の出来事ばかりを取り上げるだけで、それらの背後にある意図や、アメリカの世界観を国民に伝えようとすることはなかった。さらに話がズレるが、戦前の時から、日本の知識人は、なぜかソビエトに対しては過剰に思想や観念論を論じ、社会主義思想や共産主義思想を理解しようと努めるのだが、アメリカに対しては、強大な軍事力があることは理解しているが、精神や思想では、ただのお気楽極楽な物質文明の国としてしか(そーゆー面も確かにある)見てこなかった。

 このアメリカに対する見方を、根本的に変えなくてはならない時に来ていると思う。以前、ここでも書いたが、ようするに、今回の選挙でなんでブッシュが再選したのかということに、僕は今だにこだわっている。あの時、ワタシは保守思想とは何かということをカンガエマスと書いた。考えているのだ。そこで思ったのが、保守思想の台頭は、1964年のアリゾナ州の上院議員バリー・ゴールドウォーターの大統領候補指名受諾演説から考えていいのだろうかということだ。どうもそうではないのではないか。純然たる保守主義は、建国の父たちの理念に従い、不必要な海外介入はしない。世界を民主化しようなどという酔狂なことは思いもつかないのが、まっとうな保守主義である。つまり、これは保守主義の台頭と共に、南北戦争以後の「アメリカン・マニフェスト・ディステニィー」なのであるというように考えなくてならないのではないか。

 必要以上に外国に介入しないという節度をもっていた建国の父たちの理念が、南北戦争を経て、20世紀に大きく変貌する。世界を「パックス・アメリカーナ」で覆わなくてはならないという理念に変わる。ウッドロー・ウイルソンとセオドア・ルーズベルトは、その理念の子みたいなものであった。そして、その理念をもってフランクリン・ルーズベルトのアメリカはノルマンディーに上陸し、ベルリンを陥落させ、ヤルタとポツダムで日本の占領政策を決定した。さらに、第二次世界大戦以後も、アメリカはこの理念をもって冷戦に勝利し、ソビエト亡き今、本格的に「世界の民主化」を推し進めようとしている。このビジョンを明確に打ち出したのはレーガン政権であり、それを受け継いでいるのが今のブッシュ政権である。つまり、ことは民主党だから、共和党だからというレベルの問題ではなく、もっと奥の深い「アメリカの精神」のようなものとして理解しなくてはならない。

 ライスは元々、ソビエト研究の学者であった。この時代の国際関係論の論者は、皆多かれ少なかれハンス・モーゲンソーとその弟子のヘンリー・キッシンジャーの現実主義政策の枠組みで物事を考える。しかしながら、ライスが上智で語った世界観は、キッシンジャーの現実主義世界観ではなく、レオン・シュトラウスを源とするネオコンの理想主義の世界観である。つまり、ブッシュの二期目の外交政策は、これまでのネオコン路線と変わっていない。むしろ、より一層、世界の民主化を、ぼーりょく的と呼ばれようが、ごーいんと呼ばれようがやるということなのであろう。ライスが上智で語ったことは、つまりはそういうことなんだな。

 Washington Post のライスの上智でのスピーチについて"Rice Puts Japan At Center of New U.S. Vision of Asia"を読むと、ライスが上智で語ったのは、日本に対してではなく、次に行く(これから「自由」と「民主化」の理念の対抗相手になる)中国に対して語っていたのであったことがわかる。

 ライスの「世界の民主化」構想について、Washington Postは"Rice Describes Plans To Spread Democracy"と題して報道している。日本のマスコミには、こうした世界を大きな枠組みで見る視点がない。

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Comments

なぜ、上智か?

猪口邦子、今なんとか大使、のコネクションではないでしょうか?

猪口センセは上智のセンセだし。

Posted by: いか@ | March 31, 2005 at 08:00 AM

すみません。

>>そもそも上智で何を

という、問いでしたね。なぜ、上智で?ではなく。上記コメント、とんちんかんでした。

Posted by: いか@ | March 31, 2005 at 08:03 AM

なぜ、上智だったのか。

うーむ、迎賓館が近いからかな。何度か行ったことがあるんですが、教室の窓から迎賓館(らしきもの)が見えたような記憶があります。

軍縮会議日本政府代表部特命全権大使(長い!)ですね。僕は、その昔、猪口センセのポスト覇権なんとかという本を読んで、冷戦後は世界は多極化すると書いてあって、なるほどそうかと思ったのですが、実際はそうはならなかったというわけで。

Posted by: 真魚 | April 02, 2005 at 03:37 AM

保守主義の台頭について、私が知る限り最も良く書かれているのは"The Right Nation"ではないでしょうか?真魚さんはすでに読んでいるかもしれません。私はあの本を読んでブッシュ再選を確信しました。

ここで閲覧者の皆様に同書を紹介すると、著者はJohn MicklethwaitとAdrian Wooldridgeという英エコノミスト誌の記者です。残念ながら邦訳は出ていない(本当かな?)ようですが、真魚さんが指摘されたバリー・ゴールドウォーター以来の保守の活性化、ニューディール以来はリベラルに遅れをとった思想面での強化、保守系のグラスルーツ組織の拡大などなどが大変良く分析されています。両著者を現代のド・トックビル(二人とも英国人です)というのも過言ではありません。何よりも印象的なのは、「例えケリーが勝ってもアメリカの保守化の流れは止められない」と記していることです。閲覧者の皆様には強く薦めたい一書です。

ところでこの記事に気になる部分があります。

<<純然たる保守主義は、建国の父たちの理念に従い、不必要な海外介入はしない。世界を民主化しようなどという酔狂なことは思いもつかないのが、まっとうな保守主義である。>>

アメリカの建国の父たちは本当に海外介入に消極的だったのでしょうか?実際の合衆国は大西部への進出を続け、自国を「ヘラクレスの揺りかご」と呼んでいたように、いつの日か建国の理念を全世界に広げようという野心は抱いていたのではないかと思われるのです。ただ建国当事はヨーロッパ列強との力の格差が歴然としていたため、モンロー主義をとっていたのではないでしょうか?すなわち、建国の父たちの外交政策も「パックス・アメリカーナ」のそれと表裏一体と見なして良いのではないでしょうか。

この当たりはロバート・ケーガンのOf Paradise & Powerを再読すると良いかなと思えてきます。中西輝政も「大英帝国衰亡録」でこのようなことを記していました。閲覧者の皆様の参考になれば何よりです。

Posted by: 舎 亜歴 | April 05, 2005 at 12:56 PM

たいへん参考になります。ありがとうございます。

"The Right Nation"は購入して本棚にありますが、まだ本格的に読んでおりません。翻訳はでていないと思います。そうした内容でしたか。読んでみます。

>>建国の父たちの外交政策も「パックス・アメリカーナ」のそれと表裏一体と見なして良いのではないでしょうか。<<

これは私の記事「続・世界の民主化をやるわよ」でのkakuさんのコメントへの私の文章にありますように、

>>「つまり、これは保守主義の台頭と共に、南北戦争以後の「アメリカン・マニフェスト・ディステニィー」なのである」という文章で言えば、前者の「保守主義の台頭」と、後者の南北戦争以後の「アメリカン・マニフェスト・ディステニィー」は(どちらも源は独立革命にあります)正反対のものなのですが、それが共存しているのが今のアメリカなんです。<<

世界に介入するという意志も源は独立革命にあったと私も思います。しかしその一方で、建国の父たちは、世界に介入することはしてはならない、それをすることによって共和国であるアメリカは滅びるという危惧も持っていたと思います。例えば有名なジョージ・ワシントンのFarewell Addressでも海外のことに介入してはならないとしています。

建国の父たちの言う海外のことに関与しないの「海外」とは、ヨーロッパを意味します。ヨーロッパの政治問題に介入しないという意味です。この時代、ヨーロッパ以外には「外交」を行う相手になる文明社会は存在しないと思われていました。建国の父たちの理想は、共和制ローマです。彼らは共和制ローマを模範としながら、その一方でローマのように滅びることは絶対に避けなくてはならないと考えていました。ローマは対外戦争による軍事独裁政権になることで滅びたと考え、そうなることのないように合衆国憲法を作りました。「パックス・アメリカーナ」とは、「パックス・ロマーナ」から来ていますが、「パックス・ロマーナ」とはまさしく帝政ローマであって、それは建国の父たちの理想であった共和制ローマではありません。ですから、建国の時点でアメリカは「パックス・アメリカーナ」の意思を持っていたとは考えがたいです。大西部への進出は、もう建国の父たちの時代ではありません。つまり建国の理念が、西部開拓や南北戦争以後変容していくのだと私は考えます。このへんのことについては、ご指摘の中西輝政先生が最近出された『アメリカ外交の魂』でたいへん興味深いアメリカ史の見方を書かれています。


Posted by: 真魚 | April 05, 2005 at 11:55 PM

中西輝政氏の「アメリカ外交の魂」の方は読んでいません。借りてみます。ところで私のPCもADSL接続となったので、もうカフェからでなく自宅からコメントできるようになりました。これからも宜しくお願いいたします。

Posted by: 舎 亜歴 | April 06, 2005 at 12:14 AM

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