2.26 その2
渋谷区宇田川町28番地、ここに旧陸軍の刑務所があったことを知ったのは、高橋正衛著『二・二六事件』中公新書(1965)からである。ここに2.26事件の青年将校たちが抑留され、ここで特設軍法会議が開かれ、ここで反逆者として処刑された。
昭和40年、遺族たちによりここに慰霊像が建てられたという。そのことを知った僕は、その場所に行ってみたいと思った。住所からネットで地図を検索すると、なんと渋谷の駅前から少し入ったところなのである。あの渋谷に、戦前には軍の刑務所があったというのは、少し衝撃的だった。確か、渋谷が今の姿になったのは、西武セゾンがあそこにパルコを作ってからだったと思う。それにしても、あの渋谷に、である。
実は、先日、宇田川町28番地って、こっちの方だよなという感じで、渋谷のブックファーストあたりをうろついてみたのであるが、結局どこにあるかわからなくて、この時はそのまま引き上げた。そこで、今日、13日の日曜日は、慰霊像がどこにあるのか十分に調べてから渋谷へ行こうと思った。渋谷税務署の交差点の角にあるようだ。では、渋谷税務署ってどこにあるのか。NHKの前のようだ。そーか、とゆーことは、とにかく公園通りをまっすぐ歩いて行って、NHKに出たら曲がればいいんだな、とおおざっぱに方向を定めて、渋谷駅へと向かった。
渋谷駅から公園通りを歩く。それにしても、ホンマにここに軍の刑務所があったのかと思う。信じられない程、変わってしまったということなのだろう。2.26事件だけではなく、太平洋戦争で死んでいった若者たちは、自分たちの愛する日本の国土と日本人を守るために死んでいった。あれから半世紀以上たって、その国の後の世の若者が集まっているこの場所を、彼らが見たらなんと思うであろうか。あまりにも時間と空間が異なり過ぎている。
途中、またもや場所がわからなくなる(実は、方向音痴?)。しかし、だからと言って、道行く人に「2.26事件の碑はどこでしょうか」と聞くわけにもいかず(2.26事件って、ナニ?、と言われそうなので)、きっとこっちの方だろうと、どんどん歩いていったら NHK放送センターに出た。そこで税務署はわかったのであるが、慰霊像がどこにあるのかわからない。エキストラの撮影待ちなのか、数多くのワカイモンがNHKの裏口(?)前の路上で集まっている。ケータイに「あたし、これから仕事なの」と言っている若い女の子もいる。うーむ、どうしたものかと、なおも若者たちの間を横切って歩き、税務署の角を曲がろうとしたら、その角地に「2.26事件慰霊像」と書かれた碑が建っているではないか。ここだ。
デジカメで慰霊像を撮っていたら、道向こうのNHK放送センターの裏口(?)の前に立っていたお巡りさんが、なんとなくこっちを見ているようであった。いや、あのお巡りさんが公安とも思えんな。しきりに写真を撮っている僕の近くには、なにかのエキストラ(?)の若者が何人かいたのであるが、僕がなにを撮っているのかということには無関心のようだ。慰霊像の前には、今でも供養のせわをしている人がいるのであろう、きれいな花が置かれていた。
慰霊像から渋谷駅へ戻る道すがら、ここはよく知っている場所であったことに気がついた。HMVが以前にあった場所の、さらに(渋谷駅から見て)奥に、中南米民芸店の「チチカカ」というお店があって、その昔、会社の帰りなどに、この店をよく覗いていたものだった。このへんには中古のレコード屋も多い。それらの店から、さらに奥に50メートル行った場所に、2.26事件の慰霊像はあったのだ。つまり、僕もここに軍の刑務所があったことは、まったく知らずに酒を飲んだりして、遊び惚けていたのだ。僕もまた、あの無関心な若者たちと同じだった。今、この歳になって、もう渋谷では飲むことはまったくなくなって、こうして神妙な顔をして2.26事件の慰霊像を訪ねている。
今、この場所には、あの時代とはまったく違う時間が流れている。
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