北朝鮮の核兵器は使い物になるのか
北朝鮮が核兵器の製造・保有を初めて公式に宣言したという。このへん、明確な知識と情報があって書いているわけではないが、北朝鮮は本当に兵器として使い物になる核兵器を作ったのだろうかという疑問がある。13日の日曜のNHKの午前9時からの「日曜討論」を見ていて、北朝鮮が核兵器を持った、さあ、たいへんだ、自衛隊法を変えなくてはならないという会話を政治家のみなさんがしているのだが、そもそも「北朝鮮の核兵器って使いもんになるのか」という疑問がふと浮かんできた。
「核兵器がある」ということは、「核爆発を起こすことができる爆弾がある」ということではない。この程度のものならば、そのへんのしかるべき設備があって、しかるべき専門知識を持った人ならばできそうな気がする。しかしながら、兵器であるのならば、起爆装置も含めた制御系とか、ミサイルであるのならば誘導系のシステムが必要であるはずだ。この部分はエレクトロニクスのカタマリであり、そうとうの技術力がなくてはできない。例えば、攻撃目標が東京だとして、東京に見事命中できる精度を持った弾道ミサイル・システムを北朝鮮は持ったということなのだろうか。
東京に命中させることはできなくたって、新潟に落ちるかもしれないではないかという意見もあるかもしれないが。戦争で破壊する目標というのは、ある戦略なり戦術なりに基づくものであって、どこに当たるかわかりませんでは攻撃はできない。人口の過疎地の山の中に、ミサイルを落としても意味はないのである。特定の都市部に、ミサイルを命中させなくてはならないのだ。制御できない兵器は、兵器ではない。弾道ミサイルの発射実験では、弾頭が日本列島を越えて太平洋側へ着弾したというが、あの程度の「実験」で軍事兵器としての信頼性OKになるとはとても思えない。あれは、あくまでも「実験」であろう。しかし、実戦では「太平洋側へ着弾した」では日本との戦争にならない。広島と長崎にB29が上空から原爆を投下した時代ならいざ知らず、今の時代の弾頭ミサイルの命中精度はものすごいものがある。実験で太平洋側の海上を狙ったというならば、船舶か島のような、ある特定の目標物が定まっていて、それに対して誤差数キロ以内で命中しなくては話にならない。つまり、それだけ制御系や誘導系の技術が進歩しているということである。現代の兵器は、爆発力・破壊力・殺傷力の技術もさることながら、こうした方面の技術が重要になっている。
さらに、北朝鮮が核ミサイルを作ったとして、だ。北朝鮮がパキスタンやリビアやイラン、あるいはテロリストに核ミサイルを売ることもありうると言うが、あんた、メイド・イン・ノースコリアの核ミサイルを使おうと本気で思いますかと言いたい。品質に信頼が持てるのであろうか。もし輸送途中とかで事故とか起きたらどうするのか。危なくて使えないではないか。今どき、誰が「太平洋側へ着弾した」だけの「兵器」を買うだろうか。
この程度で、アメリカに対抗するために核兵器を持ったと北朝鮮は本気で言っているのならば、お笑いであるとしか言いようがない。ようするに、北朝鮮の核兵器保有はブラフである。
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軍事問題は難しい。しかし、それを語る際は、奇妙な高揚感がある。議論が進めば、最後は「やるかやられるか」「国際常識・軍事常識」が幅を利かしていく、みたいな。
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<<人口の過疎地の山の中に、ミサイルを落としても意味はないのである。
核の脅威は戦術的なものではなく、戦略的ものである。確かに、今回の北朝鮮の発言は挑発だけかもしれない。しかし、核が日本のどこに落ちても、経済的インパクトは計り知れないものだと。例え、東京を狙って、福島の山の中に到着しても、日本はパニックに落ち、経済は一時的にしろ完全に麻痺してしまうだろう。
マイク
Posted by: マイク | February 13, 2005 10:19 PM
Mike,
そもそも、日本に着弾するかどうかも不明だ。朝鮮半島から見て日本列島は目標として小さくて狭い。少しでもはずれれば海に落ちる。
東京や大阪や名古屋など大都市を狙わなければ効果なし。それは、太平洋戦争でアメリカ軍の本土空襲によって証明済み。核攻撃は、最初の一撃で相手を殲滅しなくてはならないことは常識。失敗すれば、報復の核攻撃を招くことなる。北朝鮮が、報復攻撃を受けてもいいというのならば日本への攻撃はありうる。しかし、それはもはや戦争ではない。北朝鮮の自滅である。
いずれにせよ、とにかく日本に命中しなくては話にならない。北朝鮮は、そのことの証明をしないで核兵器があるといっても信用できない。戦略核というのは、それを可能にする技術レベルがあって初めて可能になる。その技術が北朝鮮にはない。
おそらく日本政府は上記のことがわかっているであろう。なぜならば、上記のことは軍事の専門家なら常識だからである。つまり、日本政府は、北朝鮮の核兵器保有宣言を、日本国民に「北朝鮮は核兵器を持っているから、自衛隊法を変える必要がある」と納得させるために政治的に利用しようとしている。私は自衛隊法は変えるべきだとは思うが、こうした方法で変えるのは卑怯であると思う。
脅威が存在しないのに脅威があるとして、国民の不安心理を煽り、軍事化を進めるのはブッシュ共和党のやり方と同じである。
Posted by: 真魚 | February 13, 2005 11:09 PM
脅威でいえば実際に国民が拉致されているんですが?
しかも正確な人数はわからないし
誰が手引きをしたのかも分かってません
核だけが脅威ではないテロを起こされる危険性だって
いや核を持ち込まれる可能性だって現状ではありえるんですが
偉そうな解説はどうでもいいです
まっすぐ君はどっちなんですか
Posted by: 半兵衛 | February 25, 2005 03:39 PM
うがちすぎな意見だとは理解しているのですが、
貴方の文章を拝読していると、
「東京以外の場所に落ちたとしても、戦略的に
はさほどの意味はない」
↓
「大都市ではない箇所はミサイルが落下してきても問題ない」
と読めてしまうのですが・・・・
地方都市在住の者は、ミサイルの標的になってもかまわないのですか?
Posted by: 新潟在住 | February 25, 2005 04:27 PM
半兵衛さん、
核兵器による脅威はないと書いております。北朝鮮の「脅威」とは、なにがどのような「脅威」なのかを考えて北朝鮮に対応することが必要だということです。核だけが脅威ではないというのは、その通りです。ですから、「核」も「拉致」もごっちゃにして考えるのはやめようと申しております。むしろ、張り子の寅みたいなものなのですから、強硬な対応をとる必要があると思います。
Posted by: 真魚 | February 26, 2005 01:18 AM
新潟在住さん、
「東京以外の場所」というのは、もちろん地理的には新潟も含みますが、新潟に命中させるのも、今の北朝鮮ではかなり無理があるのではないでしょうか。「日本列島は目標として小さくて狭い。」「とにかく日本に命中しなくては話にならない。」と書いています。むしろ、「大都市」も「大都市ではない箇所」も特定の目標という意味では同じです。つまり、東京都民であろうと、地方都市在住の方であろうと、今の北朝鮮の技術ではミサイルの標的にならないということです。
Posted by: 真魚 | February 26, 2005 01:33 AM
ご挨拶もせずにTBを張り、失礼しました。また丁寧なコメントをありがとうございました。これからもよろしくお願いします。
Posted by: takada | March 01, 2005 03:06 AM
はじめまして、ぶらぶらしていてたどりつきました。
「メード・イン・ノース・コリア」といっても、もともとはここの核テクノロジーは中国製(インドに対抗するため、中国がインドに敵対するパキスタンに供与したテクノロジーでした。パキスタンの何とか言う博士が「一人で勝手に」北朝鮮に漏らしたということになってますが、、、)なので、そこそこ怖いのではないかと思うのですが?
Posted by: くま | March 07, 2005 04:51 PM
核兵器というものは、実際に使えるかどうかよりも持っているというポーズで効果を発揮する。キッシンジャーが述べているように、嘘と思われる真実よりも本当と思われる嘘で相手に脅威を与えられる。
実際に核はなかったらしいイラクでも、サダム・フセインが国連などの査察をあざ笑うかのような態度をとったために周辺諸国に大きな脅威を与えてきた。
北朝鮮のミサイルの命中率の議論も余り意味がない。彼の国のスパイやテロリストが9-11のような自爆テロをやれば日本でもどこでも攻撃できる。一般航空機、船舶、車両・・・と運搬手段は何でもあり。
結局、どんなポンコツ核兵器も侮れない。
Posted by: Ross K | March 07, 2005 07:27 PM
くまさん、はじめまして。
業務用の機械もそうですが、機械を「使えるようにする」には、それなりの「訓練」や「メンテナンス」が必要です。それら一切がっさいの支援システムおよびそれを運用する技術者が必要です。それら全部技術移転をし、かつ、何度も実際にテストを重ねて初めて北朝鮮の人々は「使えるようになる」わけです。しかし、そうであっても量産できなくては「軍事兵器」になりません。あの国が、そこまでの工業力を持つのはかなり先だと思います。(あの体制では永遠にないかも)
ただし、テロリストの爆弾として使うのならば可能でしょう。そうした脅威はありますよ。
Posted by: 真魚 | March 07, 2005 11:30 PM
RossKさん、はじめまして。
今の時代は、実体としての「兵器」による戦争と、情報での戦争を分けて考えなくてはならないと思います。
実体としての「兵器」は、技術的な観点からの評価や判断が必要とされます。これはこれで押さえなくてはなりません。
もう一点は、RossKさんの言われる情報での戦争というレベルです。キッシンジャーに限らず、古来、外交において「嘘」や「はったり」や「恫喝」は常套手段です。核兵器についても、「核兵器がある」と言うこと自体が「脅威」となるというのはご指摘の通りです。しかしながら、その一方で、そのブラフがブラフとして通用しなくてはブラフになりません。ヘンリー・キッシンジャーは、高感度の軍事衛星や地球規模の情報通信網がなかった時代の人です。現代では、ポンコツ核兵器ではブラフすらながせません。敵は簡単に「そんなもんは使いものにならない」という対抗情報を流してきます。つまり、仮に虚構の情報であっても、その虚構を演出する技術が必要とされるということです。この演出の技術が21世紀の今日は格段の進歩を遂げています。キッシンジャーは、これを理解していません。私は、今の時代の核戦略はMutual Assured Destructionのセオリーでは捉えることはできないと思います。
北朝鮮が「我々には核がある」というのが真偽が定かでない情報であるのならば、こちら側は「こちらの調査では、実戦に使用できる技術レベルに達していない」という情報(こちらも仮に「嘘」であったっていいんです)を流すことによって、北朝鮮側の「我々には核がある」という主張を無力にすることができます。敵が情報戦で来るのならば、こちらも情報戦で対抗するスタンスが必要です。むしろ、私は、なぜ日本がこうした情報戦の基本中の基本のスタンスを取らないのか不思議です。
核テロの脅威はあると私も思います。これはこれで(北朝鮮の核ミサイル云々ということとは)別の議論です。
Posted by: 真魚 | March 07, 2005 11:34 PM