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January 10, 2005

スマトラ沖地震に思う

 TIME Jan.10号の特集のスマトラ沖地震を読む。地震の発生時に、ホノルルのthe Pacific Tsunami Warning Centerは津波が起こる可能性があることをインドネシアやタイに伝えていた。ところが、インドネシアの津波警告のオフィスの責任者は、26日の朝オフィスにはいかなったのでメールを見ることができなかったという。タイの役人は、タイの近くで地震が起きたことはもちろん知っていた。しかし、津波がくるということはまったく意識していなかったという。つまり、津波というものを知らなかった。

"The earthquake was far away." he says."In the past 1,000 years we've never had a tsunami, so why should I issue a warning for one?" Sumalee repeats the thought. "I never considered issuing a tsunami warning because we never had a tsunami before," she says, bristling at press reports that she hesitated to sound and alarm because it would damage Thailand's tourism industry. "Concerns about scaring tourists away never came to it." she says.
(TIME, Jan 10,2005)

 最初の人は「過去1000年間、津波なんてなかった。だから、なぜ津波警報を出さなくてはならないのか?」と言っている。次の人も、津波を経験したことがないからわからなかったと述べている。タイ政府は、タイの観光産業のダメージになるため津波警報を出さなかったという報道に怒り、「観光者を怖がらせて避難させること(そのこと自体が)思いもつかなかった」のだと言う。

 これらの担当者がどのような人なのかはわからないが、少なくとも専門教育を受けた者ならば、過去に津波現象がなかったから、今後も起こることはないとは言わないであろう。しかしながら、一般常識というのは、必ずしも論理的なものではない。この場合、地震が起きたという情報を受けた時、それを専門的知識で受け止めるか、一般常識で受け止めるか、そのどちらもありうると思う。問題なのは、地震情報を入手した時、津波警報を発令する必要があるのかどうかを確認するという手順ができていなかったということだ。なぜできていなかったというのは、タイ社会そのものが津波について「過去1000年間なかったから」なのであろう。

 今回の津波については、地震の震源がインドネシアのすぐ近くなので、かりにインドネシアとタイに津波警報システムがあって、それが正しく作動されていたとしても、今回の被害を防ぐことはできなかってあろうとTIMEは書いている。ただし、インドやスリランカは地震発生から津波到着まで約2時間はあったため、少なくともこれほどの被害になることを避けることはできたであろう。国連は、来年からインド洋と東南アジア地域の津波警報ネットワークを構築する計画を発表したという。

 通常、セキュリティを考える時は、過去になかったから今後もないとは判断しない。それが起こりえないという論理的な根拠がない限り、それは起こりえるものとして考える。しかし、では、あらゆる「起こりえるもの」について対策をしなくてはならないのかというと、ここで予算なり時間なりのファクターが現れる。しかしながら、人命に関わる場合はどれだけコストがかかろうと、現在わかりうる限りのあらゆる対策を行わなくてはならないことになる。人命を失った場合のコストの方が遙かに大きいからである。

 上記の「過去に起こったことがないから知らなかった」というのを読んで、小松左京の小説『日本沈没』の一節を思い出した。マントル対流と海底山嶺のデータを積み上げて、田所先生がこれからなにかたいへんな出来事が起こるかもしれないとD計画のスタッフに説明するシーンだ。「過去に一度も起こったことのないようなことが、はたして起こりえるんですか?」という秘書官の問いに、田所先生はこう答える「歴史とはそういうものだ。単なるくりかえしではない。まったく新しいパターンが現れる。」つまり、我々に必要なことは想像力なのだと思う。過去に起こりえなかったことでも、我々は科学的知識に基づいて想像しうる。

 そして、インド洋のとある場所で、ビルマプレートの下にインドプレートが潜り込んで行く時、ほんの少しビルマプレートが跳ね上がるという、地球から見ればとるにたらない、ほんのささいな出来事が起こっただけで、それだけのことでも、この惑星の表面に住む生物に甚大な影響を及ぼし、これだけの厖大な数の人々が死んでいった。「地球にやさしい」どころではない。やさしくされているのは、我々の方なのだ。スマトラ沖地震で亡くなった人々は、そのことを僕たちに伝えている。

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