階層化する日本
年末年始の休みに、最近よく話題になっている「不平等社会」についてまとめて読んでみた。
『日本の経済格差』橘木俊詔著 岩波新書(1998)
『不平等社会日本』佐藤俊樹著 中公新書(2000)
『論争・中流崩壊』「中央公論」編集部編 中公新書クラレ(2001)
『希望格差社会』山田昌弘著 筑摩書房(2004)
『封印される不平等』橘木俊詔編著 東洋経済新報社(2004)
『階級社会日本』橋本健二著 青木書店(2001)
戦後半世紀の間、日本はわりあい機会均等の国であり、誰もが努力すれば、その努力に応じた生活ができると思うことが可能な社会であった。「総中流社会」であったと言えるだろう。ところが、1980年代以後、どうもみんな同じとは思えない世の中になってきた。低所得層と高所得層の格差は拡大し、親が金持ちならば、子供はさほどの努力をしなくても金持ちになっているのではないかと人々は漠然と感じるようになってきた。上記の本は、その感じが定量的・定性的な調査によっても立証されることを論じた本である。ようするに、今の日本はそうした社会なのである。
機会が均等であれば、生活水準の格差は個人の実力の反映ということになる。よって、生活水準が低いのは「アンタが努力しないのが悪い」と堂々と正論を言うことができた。しかしながら、「努力すればなんとなる」と思うことができたのは過去の時代となり、現代は「努力しても得ることができない」と思ってもおかしくない時代である以上、「努力する気にもなれない」と思うのは当然のことであろう。それを「努力しないお前が悪い」と言ってもなんにもならない。「努力したくない」と思っているわけではなく、「努力してもしょうがない」と思っているから努力しないのである(もちろろん、そうでない場合もあるであろうが)。特に女性と若者は、もはや「社会的弱者」である。女性が「機会均等」から外されていたのは、過去の時代も同様であったが、社会全体の経済発展によりそれが表面化しなかっただけである。経済成長ができなくなった今日、過去に隠されていた数々の問題が現れ始めている。
例えば、最近、子供の学力低下が指摘されているが、これは別に教師の質が落ちたとか、「ゆとり教育」のせいではない。教師の質や教育の内容が過去は良かったわけではない。今の時代は、学校で勉強しても就職にはむすびつかない、勉強しても仕方がないという社会意識があるため子供の学力低下が起きているのだという山田昌弘氏の主張は注目すべきである。こうしたことを書くと、就職のために勉強をするのではないという声が聞こえてくるが、そうしたタテマエがタテマエとしてもう通らなくなってきていることを知るべきだ。
ニートや「負け犬」にしても、「就職をしない」「結婚をしない」だから悪いという観点は、「就職するのが正しい」「結婚するのが幸福」という価値観に基づくものである。つまり、就職するか、しないか、結婚するか、しないか、の二者択一しかなく、そして、するのが正しい、しないのが間違っているという二元論的価値観でしかない。しかしながら問題なのは、どちらが正しい、間違っているではなく、そうした二者択一の選択や二元論的な価値観しかないということなのだ。なぜ、もっと多様な選択なり価値観なりを、この社会は人々に可能性として提示できないのだろうか。それは、他の選択肢なり、他の価値観なりを想像することができないからだ。戦後60年間これでやってきたのだから、これから先もこのままでいいと思っているのだ。そして、保守的な考え方がニートや「負け犬」を自己責任の欠如や個人の甘えだと糾弾している。しかし、なんら問題は解決することなく事態は悪化の一途を辿っている。
今、社会や経済や政治を考える上で、最も必要なものは社会科学的な想像力なのではないだろうか。上記の本は、経済学、社会学、教育学の分野で、現代の日本社会が直面している社会的不平等という問題を社会科学的想像力をもって考察していこうとする取り組みである。
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"People are always blaming their circumstances for what they are. I don't believe in circumstances. The people who get on in the world are the people who get up and look for the circumstances they want, and if they can't find them, make them." --George Bernard Shaw
Posted by: マイク | January 09, 2005 08:52 AM