国立科学博物館新館へ行きました
国立科学博物館に新館が今月オープンしたというので、さっそく行ってきた。僕が初めて国立科学博物館へ行ったのは、まだ幼い頃に父親に手を引かれて訪れた記憶がある。今でも朧気ながら覚えているこの当時の館内の雰囲気は、まるで巨大な理科室であった。ひんやりとして、薄暗くて、棚の上に、瓶の中でホルマリンづけになっている標本がそのままそこに並べてあったと思う。やがて、館内は改装されてしまい、あの当時の雰囲気はなくなってしまった。
日本は経済大国で技術立国なのだと言われているが、少なくとも博物館の設備や展示内容を見る限りでは、とてもそうとは思えない。美術や工芸品関係の博物館であっても、その内容には常に物足りなさがあるが、理学の博物館の場合はさらに内容が乏しいというか、日本の基礎科学研究の底の薄さを表しているような貧困な内容になっている。とりあえず博物館なので、展示みたいなものをやっていますみたいな程度の感じであると思わざるを得ない。ようするに、日本は博物館にカネと人をかけない。アメリカの博物館と比べると、日本の博物館はあまりにも貧弱だ。科学博物館では、特にそれが感じられるので、上野の科学博物館には、よほどの興味がある特別展示でもない限りこれまで行くことはなかった。
その科学博物館に、新館ができたという。上野駅から、紅葉まっさかりの上野公園の国立西洋美術館の前を通って科学博物館へと向かう。日曜なので家族の来館者が多い。もっか科学博物館では特別展として「翡翠展」が開催されている。とりあえず、今日のところは翡翠には関心はないので、常設展の方だけを見ることにする。しかしながら、入り口の前で気になったのは、本館と新館の入場は別なのだろうかということだ。そこで、入り口で列の流れを指示している、いかにも「私はバイトです」という感じのにーさんに、「新館を見るのもこっちですか」と尋ねると、にーさん曰く「特別展はこちら、常設展のみはこちらです」という。いや、その常設展の中の新館の部分を見たいのだけど、と思い、再度「新館だけもこっちですか」と聞くと、またもや「特別展はこちら、常設展のみはこちらです」と言う。よくわからんが、コミニュケーションが成立していないことはよくわかったので、とりあえずにーさんの言う「常設展のみ」の列に並んで入場券を買った。入場料金は大人420円という感動的安さ。国の施設なので、この料金なのであろう。入り口に入ってみると、本館は現在改装中で当分閉鎖しますという表示があった。なんだ、あのにーさんはだから常設展イコール新館であるという思考をしていたのかと思う。それならそうと、「本館は今改装中で、常設展示は新館のみです」と言えばいいのにと思ったが、そうした対応はバイトにーさんの職務を越えることだったのであろう。
新館の展示内容の全体的な印象は、おしゃれな展示方法で、この狭い敷地面積(それでも日本で最大規模の展示面積だという)によくもまあこれだけたくさんの展示品を置いたものだと思った。アメリカの博物館の展示手法を取り入れていて、体験コーナーのところなど、サンノゼにあったインテルのテック・ミュージアムを思い出した。
地下1階と地下2階の恐竜やほ乳類の骨格展示はなんかすごかった。ようするに、あれらはみんな死骸なのである。死骸の骨格が室内インテリアみたいに並べてあって(科学博物館新館のプレスリリース向けのディスクトップ画像です)、見るこちら側も累々たる死骸の山を見ているのだ。ある意味で、これはシュールだ。
ただし、じっくりと展示物について考えることができる場所かというとそうでもないと思った。当然のことながら人が多いというのがあるが、これは平日に来ればいい。気になったのは、説明文があまりにも凡庸というか、なにを説明しているのかよくわからないものが多かった。英語の説明文も、あまりにも簡略すぎる。これでは、外国人はわからないであろう。展示物の隣に説明のディスプレイがあって、エラーメッセージでひとめでWindowsを使っているのがわかるが、エラーメッセージが出ていてはイカンではないか。それに、あのディスプレイでの説明を真面目に聞いて、ああそうか、そうなのかと理解している子供を見たことは一度もなかったのだが。なにゆえ、わざわざディスプレイを使ってCGやアニメーションで説明しようとするのだろうか。ようするに、この説明ディスプレイは邪魔だ。きちんとした説明文で説明しようとなぜ思わないのだろうか。来館者は説明文なんか読まないから、そうした部分にはカネをかけないというのならば、ここは国立の教育機関なのではないのかと言いたい。つまり、展示品の視覚的効果だけに重きが置かれていて、博物館のもうひとつの目的である教育の部分が弱い。博物館とは、展示品をただ「見る」だけではなく、それらを前にして「考える」場所でもあるはずだ。
おもしろかったのは、地下3階の宇宙のコーナーにあった銀河系のナビゲーション・パネル。これは実際に自分でコントロールバーを使って、銀河系の中で自分の望む方法へ画面を進ませることができる。このシステムには、現代の天文学の最新のデーターによる恒星の名前と位置が入っていて、画面には実際のその星の名前と相対位置が表示されるのである。あたかも、銀河の中を進む宇宙船という感じで、「スタートレック」のUSSエンタープライズの天体測定ラボにも、これの大型のものが(しかも、あっちはコンピューターは音声入力インターフェース)あった。こうしたことが本当に可能な時代になったんだなと感動。
それと、熱帯雨林のある一定の面積内で、どれだけの昆虫種がいるのかという展示で、それこそたたみ2畳ぐらいの大きなパネルに、厖大な数の小さな昆虫がびっしりと標本ピンで並べられて、これほど多様な生き物がほんの小さな面積の場所にいるのかと思った。たった1本の樹を切るだけでも、ものすごい数の生物種の生活圏を破壊することになるのだ。
というわけで、上野のデートスポットというほどもでもないが、そこそこ楽しめる場所なのではないだろうか。次回は、もっと人がいなそうな時期に来て、ほ乳類のあの骨格死骸インテリアを前にして、卒塔婆小町なんぞをぼんやりと考えてみるのも悪くないなと思う。
天気が良かったので、新館の屋上へ上り、おしるこを飲みました。うーむ、じじむさい。
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