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October 15, 2004

『花とアリス』

 岩井俊二監督の『花とアリス』DVD特別版を見た。映画館で見ようと思っていたのだけど、見に行けなかった。DVDが出たのでようやく見れた。あの『リリイ・シュシュのすべて』の次の作品だから、今度はまったく内容を変えて、かわいい女の子2人の、ほのぼの物語なのだろうと思っていたら、まったく違う。いい意味で、その期待が外れた。DVDのパッケージには「かわいい短編か何かだと思ったら大間違い。めまいのするようなジェットコースタームービーにして、超重量級の感動!」と書いてあるが、まさにその通り。いろんな出来事が次から次へと起こる。見ていて飽きない。

 岩井監督の作品は、本当に映像が美しい。もはや、映画を超えたナニカと表現してもいいほど美しい。岩井監督の作品の良さは、もちろん岩井監督自身の天才性にあると思うが、撮影監督の篠田昇の存在が大きいと思う。技術的に見るのならば、岩井監督の映像美の背後には、今の時代のデジタル映像技術がある。従来の映画の制作方法では、大きな機材と数多くのスタッフがいなくては撮影ができなかったのに対して、今の時代は、撮影機材も編集マシンも、極端に言えば、SONYのハンディカムとマックと大容量のハードディスクがあればそれでできてしまう。このことが、映像により一層の作家性を持たせることを可能にしているのだと思う。

 この映像のデジタル革命の先頭を走っていたのが、『花とアリス』の撮影監督である篠田昇である。この人が初めてスクリーンにハンディカムを使用した人である、と言われている。テレビ番組の『打ち上げ花火、下から見るか?横から見るか?』で、テレビ界では異例の日本映画監督協会新人賞を受賞した岩井俊二監督の映画デビュー作『Love Letter』(1995年)の撮影担当が篠田昇であり、彼はこの映画で、本格的にハンディカムを使用して、映像の新しい地平を開いた。映像の現場にハンディカムの導入を提案したのは、そもそも岩井監督だったという声もあるが、ようするに、この2人は同じようなことを考えていたのだと思う。岩井映画は、岩井俊二の感性と篠田昇の先見的な撮影技術が生み出したものなのだと言ってもいい。

 憧れのセンパイをゲットするためにウソをつくハナ(鈴木杏)。お前、そーゆーウソはイカンだろ、ウソは、と思わず言いたくなるけど、こうゆうウソを言ってしまうハナの気持ちもわからないでもない。『花とアリス』の物語は、親友同士の2人の高校生ハナとアリス(蒼井優)のセンパイをめぐる恋の三角関係のラブコメ(やっぱ、これはラブコメだよねえ)である。しかし、ところどころの何気ないシーンに、ハッとしたり、なつかしかったりする風景や構図があったりして、だだのラブコメではない。見ていて、僕も、ああっ高校はブレザーだったなとか、自転車通学だったけど、たまには電車で通ったなとか、部活が、とか、思い出したくないことも含めて思い出してしまった。

 ハナの性格って、おもしろい。一見、学級委員長のような真面目な子なのかなと思っていたら、ところが、どうしてどうして、そりゃもう。なんか見ていて、すごくなつかしい子に出会ったような気持ちになる。アリスとつかみ合いのケンカまでしたハナであったが、センパイの気持ちを想い、とうとう真実を泣きながら話す。ちゃんと、自分のついたウソに自分で決着をつけていた。

 アリスが別居しているお父さんと会うシーンも良かった。このお父さんは、妻と娘を捨てたような、どうしようもない程ごく平凡の口べたの中年男なのであるが、娘に高校の入学祝いにと万年筆を手渡しながら、この万年筆は、使わないのだけど、なぜかいつも引き出しの中にあるんだよなあと言うシーンで、このお父さんは、生真面目で実直ないいお父さんだったんだと思った。ぎこちなくしているけど、アリスも、このお父さんが嫌いではなかったんだと思う。このお父さんと会うシーンがあることで、母親との家庭崩壊が進行する中で、後で、海岸でセンパイが拾ったトランプのカードのことを知った時、涙を流すアリスの気持ちがよくわかる。

 最後のアリスのダンスシーンは、見ているこちら側がぴしっと背筋を伸ばして座り直した程、清らかさと静謐な美しさを感じた。バレエというのは、こんなに美しい動きをするものだったのかと改めて思った。お父さんのこと、お母さんのこと、センパイのこと、ハナのこと、そして、これからの自分のこと。数多くのものを背負いながら、それでも前向きに生きていこうというアリスの意思のようなものを感じた。

 『リリイ・シュシュのすべて 』を見終わった時は、すごい鬱になったけど、『花とアリス』を見終わった後では心が温まった。そして、今の自分はあの頃から遙か遠くに離れてしまったことを感じた。高校時代は、楽しかったなあ。

 篠田撮影監督は、この映画を撮り終えた後、病気で亡くなられた。これほどの見事な映像美のある作品と、これからさらに発展していくであろうパーソナル・メディアによるデジタル映像テクノロジーを残してくれた氏のご冥福を心からお祈りいたします。

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