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October 21, 2004

BSEの全頭検査見直し

 BSE(狂牛病)の全頭検査見直し問題で、政府は、生後20ヶ月以下の牛の検査除外などを含めた見直し案を内閣府の食品安全委員会に諮問したという。

 食料の安全という意味で言えば、アメリカの人々は何に不安を感じることなく、今日もビーフを食べている。それは、牛肉の危険性があまりよく知られていないからだということもあるであろうが、そんなことはオンリー・ゴッド・ノウズなので、アイ・ドント・ケア。ノープロブレムなんだから、日本は早く牛肉輸入を再開しろというのが、アメリカの考えであろう。

 ところが、かたや太平洋の反対側のわが国の感覚では、こうしたアバウトな検査体制は納得できない。全頭検査をやるべきだというのが、日本の消費者の常識的感覚であろう。

 このアメリカ牛肉の日本への輸出問題でわかるのは、つくづくブッシュ政権は理解できないということだ。あの国は、旅客機がテロリストにハイジャックされて、貿易センタービルやペンタゴンに突っ込んでくるという出来事が起こるとあれほど大騒ぎをするのに、BSEについては「どおってことない」「ほんの一部の牛肉が危険なだけ」「うちは問題ない」という判断しかしない。この差は、一体なんなのであろうか。これは、ヤコブ病とBSEの関係はまだ解明されていないとか、アメリカ人の国民性はこーゆーことに神経質にならないということとは別の話だ。

 アメリカの牛肉市場での日本市場の割合の大きさを考えると、これは、ショーバイの話として考えなくてはならないのだ。本来、アメリカは、お客さんである日本(および、その他の国々)がどう思うかを考えなくてはならない。商品について、顧客側に不安や不信があったのならば、即刻、顧客側が納得する方法で解決しなくてならないことはショーバイのイロハであろう。そのことを思えば、別にアメリカに攻撃をしてきたわけではないサダム・フセインが、大量破壊兵器を持っていたかどうかというよりも、こっちの方がもっと重要だった。

 アメリカは日本側が受け入れることができる検査スタイルで、アメリカ牛肉の安全性を立証する必要があると判断するのが、常識的なビジネス感覚である。アメリカ牛肉には危険はないというのならば、大統領が国連で「アメリカ牛肉は危険ではない」と演説したっていい。そこまでしていいほど、(多少大げさに言えば)アメリカが国際社会でビジネスを行っていく上で、これは大きな問題だった。ましてや、自国の食料の安全のために、他国も認めるしっかりとした体制を作ることは、なによりもアメリカ市民にとって良いことであるはずだ。

 しかしながら、ブッシュ政権はそうしたことをしなかった。する必要すら理解していなかった、し、今もしていない。そして、テロ対策と称して、イラクの一般市民や子供たちの頭上に爆弾を落とすことをしてきた。共和党の経済政策は、軍事産業や石油産業に利益を与えることが、結果的にアメリカの国益になるという発想である。テロの危険性をあれほどやかましく言うわりには、自国の食料の安全性について、日本やヨーロッパの基準より遙かに劣るというのは一体どういうことであろうか。ブッシュが言う"homeland security"というのは、過激イスラム教徒によるテロ活動しか見ていない。少なくとも、foodはsecurityに入っていないようだ。

 そして日本に対しては、「日本の消費者は、早く安くておいしい牛肉を食べたがっているじゃないか」「アメリカ牛肉の危険はない」「ノープロブレム、ザッツオール」という政治的圧力で日本の輸入停止を無理矢理やめさせようとしている。やがて日本の政治家も外食業界からの突き上げを食らって、アメリカ牛肉の全頭検査なんて見直さざる得なくなるだろうと思っている。現に、そうなってきた。食料の安全性という、いわば国の根幹たるものの守りや、外国市場で地味なビジネスをこつこつやっていくということよりも、見かけが派手な軍事力による外国制圧を優先するという今のアメリカは愚かしいとしか言いようがない。

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「経済・政治・国際」カテゴリの記事

Comments

 >本来、アメリカは、お客さんである日本(および、その他の国々)がどう思うかを考えなくてはならない。商品について、顧客側に不安や不信があったのならば、即刻、顧客側が納得する方法で解決しなくてならないことはショーバイのイロハであろう。<

先日、何かの報道番組で、このような姿勢のアメリカの食肉業者を見ました。ちゃんと見なかったので詳しくはわかりませんが、日本人のバイヤーが視察に行って満足していたようです。

全頭検査というのは、がん検診をしても全ての初期がんが100%みつかるわけではないのと同様、それほど確かなものではないので、アメリカの言い分(全頭検査はあまり意味がない)もそれほど間違っているわけではない、ということも聞きました。

でも、あの報道の良心的な業者が一頭一頭危険部位をていねいに除去している様子を見ると、お客様に対してこれぐらいの誠意を見せるのが普通でしょう、と思いました。

ただ、それでも危険は完全には払拭できないと思います。牛肉が好きな子ども達のために私は国産牛を買っていますが、それも100%安全なのか、と疑いを持ちながらです。日本でだって感染牛は見つかっていますから。

「食の安全」については、牛肉だけのことではなく、これからは「危険なものを食べないように避けて通る」のではなく、安全な食べ物を生産するシステムをみんなで作っていかなければならない時代なんですね。戦争なんかしてる場合じゃないのかもしれません。

Posted by: robita | October 22, 2004 at 01:41 PM

食の安全性を完全に保つことは、今の時代そうとう困難になっていると思います。コストを度外視すれば可能でしょうけど。そうもいかない。結局、危険かも知れない食べ物を前にして、できることをやっていくしかないですね。

安心して食べることができる食べ物の生産と流通のシステムを考えることが必要ですね。

Posted by: 真魚 | October 23, 2004 at 01:29 AM

http://www.opinionjournal.com/columnists/hjenkins/?id=110004503

上記のURLにBSEとこの問題についてのアメリカの見方が。また日本でのBSEについても少し書かれています。

マイク

Posted by: マイク | October 24, 2004 at 10:57 AM

Mike,

確かに、"Mad cow disease is no cause for panic. "だと私も思う。パニックになる必要はない。しかし、私が書いたように、これは対日ビジネスとして考えるべきだ。客の望む方法で信頼性を証明することが必要。もちろん、アメリカ側の視点に立てば、本当に全頭検査が可能かどうかということはある。つまり、日本とアメリカはお互い納得できる所に至るのが交渉だ。

ただし、納得する相手は、日本国政府ではなく日本の消費者。国家レベルでものを考えるのではなく、例えば、日本の県知事がアメリカの州政府と連携して、テキサスなら、テキサスの牛は安全ですと。こうやって検査をしていますと。日本の販売店が不信に思うのならば、どんどん見に来てくださいとやる。ワシントンと東京の話し合いにしているから、全然進展しないのです。

Posted by: 真魚 | October 26, 2004 at 12:50 AM

基本的に全頭検査は必要ないと。日本に輸出される牛肉にかかわる牛の”LifeStyle"(なんかかっこいい言葉をと!)が確かめれば問題ないと。日本向けに牛肉を扱っている牧場がどのように肉を管理しているかがわかればOKじゃないですか?

アメリカでは基本的に骨紛を入れた食べ物は使う必要がないのでBSEがこれまで出てこなかった。

吉野家の牛丼も来年の夏には元に戻りますね。これまで作ってきた牛丼リプレースメントはどうなるでしょうか?

マイク

Posted by: マイク | October 26, 2004 at 07:10 AM

こんにちは robitaさん経由でお邪魔しています。

BSEの問題は科学的研究が続いていて 現在の成果を踏まえて交渉が進んでいると思います。

殊更 政治的に 見てもらえばわかるとか 肉の管理がどのようにしているか知るならOKと言う問題でない データーで話し合いになる。

BSEの検査が必要だが日本は全頭をすることに決まっている。

アメリカは全頭せず 抽出サンプルで十分と決めた国です。

アメリカの検査も科学的な決定方法の一つであると私はかんがえます。これでアメリカが押し切れなかったからには 日本側の科学者を説得しきれない部分が存在するのでしょう。

そこで日本の全頭検査でも判明しないものがあると言う指摘です。

若い牛とりわけ20月齢以下は検査しても判明しない。だから危険部位をきれいに除く それでいいじゃないかが アメリカの主張のようです。

20ヶ月以下の検査が黒白つけがたいのは 日本も認めたようです。

でわ20ヶ月以下の牛をどうやって判別するか いま問題になっています。

日本人が食べる肉だからと 適当に皆20ヶ月以内とされても
こまります。

日米両国 科学者が普通に話するなら落ち着く所 納得できるものになるでしょう。

いたずらな政治的解決にならないでしょう。先生ってそんなものです。

Posted by: kutinasi1 | October 26, 2004 at 03:16 PM

なるほど、ビジネスの問題ではなく、サイエンスの問題になるわけですね。
僕が懸念に思うのは、サイエンスの問題にすると、むしろ一発では判断できなくなるのではないか。ある学者はこう言うが、またある学者は別のことを言うのが学者の世界ですから、結論はそう簡単にはつかないのではないでしょうか。日米共同でBSEの研究を行うのは賛成ですが。

もうひとつ心配なのは、これは僕の偏見かもしれませんが、科学が政治に優先したことはかつてなかったのではないか。科学というと、なにか公明正大、客観的でニュートラルなものに思えますが、実は科学ほど政治に左右されてきたものはないのではないかと思います。

むしろ、政治でもなく、サイエンスでもなく、ビジネスの問題として扱うべきではないかというのが僕の意見です。

Posted by: 真魚 | October 26, 2004 at 11:41 PM

こんにちは

BSE問題で私が感心するのは 陰に陽に輸入の開放を迫られても踏みとどまっていることです。

日本外交で珍しいことですので エール送っています。

お互いの科学者が納得できないなら そこは不明点でもう少し研究が必要です。時間ばかりかかります。真魚さんの意見がでてきます。確かにそうでしょう。

フグ料理は免許を持っている調理師が料理すれば100%安全か?夫婦喧嘩した後でもミスしない保障はあるか?

今回の問題とどこか似ている気がします。(河豚 BSE 人間の遺伝には関係するか どうかも分からないのに こんな議論して御免なさい)


日本側委員も米国の主張を故なしとわしていないとおもいます。合意が近いと思われるのもいたしかたないです。

食の安全を希求する日本人の感情を踏まえ 月齢20ヶ月以下の判定方法で納得できるデーターがあるか ないかです。

先生は科学的根拠に弱い種族です。私はよく頑張っているとおもいます。

先生にすれば 別に難しい問題でないのかもしれませんが。

Posted by: kutinasi1 | October 28, 2004 at 11:06 AM

輸入の開放を迫られても踏みとどまっているのは、やはり消費者の目が背後にあるからでしょう。安易にアメリカに妥協すれば、世論の袋だたきにあうことは間違いないでしょうから。

基本的に、アメリカ牛肉が入ってこなくても、今の消費者はそれほど困っていないように見えます。これは食の多様化ということですね。日本人がコメを食べなくなったのは、食の多様化によることですが、こうした状況になっても、さほど深刻な事態にならないのも食の多様化によるものです。つまり、コメも含めて、一国のいち食物にそれほど依存することがなくなったということですね。

Posted by: 真魚 | October 29, 2004 at 12:52 AM

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