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September 13, 2004

『フォッグ・オブ・ウォー』を見て

 六本木ヒルズの中にあるヴァージンシネマズで『フォッグ・オブ・ウォー』を見てきた。このヴァージンシネマズって、初めて行ったのだけど、アメリカの映画館みたいに、ひとつの大きい建物の中にいくつもの大きな部屋があって、それが映画上映室になっている。チケットの販売場とチケットをもぎる(?)場所はひとつだけで、観客は自分の見る映画が上映している部屋へ行くという仕組みになっている。

 アメリカの映画館と違うなと思うのは、まず当然のことながら料金が高い。1800円は16ドルぐらいになるけど、この価格はアメリカでの常識を越えている。なんで映画がこんな高いんだ。次に店内がたいへんきれい。アメリカの映画館は内装も外装もなんか汚い。そうじゃないところもあるけど、週末にちょっと行くような映画館はたいてい汚い(僕がそういう映画館しか行かなかったということもある)。映画館は映画を安く見せられればそれでいいんだという感じで、このへん合理的だ。それに、ヴァージンシネマズは指定席制だ。

 僕の席は後ろの方だったけど快適だった。あまり混んでいない。前の方なんかガラガラだ。日曜日の13時30分の回がこんな状況では、この映画の動員数がどうなるかほぼ予測できる。マイケル・ムーアの『華氏911』はあれほどヒットしているのに。アカデミー賞をとった映画にはやたら観客が入ると思っていたが、どうやらアカデミー賞でもドキュメンタリー賞は別らしい。内容がキューバ危機やベトナム戦争のことなので日本ではあまり関心がないのだろうか。太平洋戦争時のB29爆撃機での日本本土爆撃計画のことについてとか出てくるのだけれどもなあ。

 ドキュメンタリー映像作家の森達也が言っていたが、『華氏911』のヒットによってドキュメンタリー映画の人気が高まったというが、そんなことはないと言う。今のブームはマイケル・ムーアがブームになっているだけで、ドキュメンタリー映画そのものへの関心が高まったわけでないと言う。このヴァージンシネマズでは『ディープ・ブルー』も公開していて、こっちの方は人気がある。しかし、魚のドキュメンタリー映画じゃなあ。

 日本本土への爆撃作戦の司令官は、カーチス・ルメイ少将であった。東京大空襲では、一晩に10万人の日本人が死んだ。なぜ一般市民を10万人も殺す必要があるのかとマクナマラはルメイに訪ねる。ルメイはこう答える。ここで10万人の日本人を殺しておかなくては、アメリカ軍が後に東京湾から上陸した時に、日本人の強烈な抵抗にあいアメリカ兵の被害は甚大になる。だから、今殺戮をしておくのだという。この少将は、後にこの論理で広島と長崎に原爆を落とす。マクナマラは戦争には程度があり、東京を空襲して一晩で10万人の一般市民を殺すことも、広島・長崎への原爆投下も必要なかったと語っている。ルメイは、この戦争は絶対に負けれないと言う。なぜならば、自分は戦争犯罪者になってしまうからだと。マクナマラも、この戦争に負けていたら自分もトルーマンも戦争犯罪者になっていたと語っている。ルメイは後のキューバ危機の時に、最後まで核攻撃を主張する。今度は、ルメイの上役になったマクナマラはそれを退けた。

 この映画には『華氏911』ような派手さもコミカルさもない。マイケル・ムーアの映画には今でも(そしてこれからも)数多くの批判や事実誤認の指摘があるが、この映画には『華氏911』や『ボーリング・フォー・コロンバイン』のようなトゲトゲしい激しい批判はないように思う。むしろ、いい評価をするレビューが多い。

 内容については、先日ここで書いた通りだ。もっとキューバとかベトナムとかでの討論会のことをやって欲しかったと思った。

 マクナマラは反戦論者ではない。ベトナム戦争はもっと適切な方法で行うべきだったのだと述べている。そうではなかったので反対していただけだ。興味深いのは、彼にはリベラルや保守といった思想的なものがないように見えるということだ。良くも悪くも、合理的経営管理の人だった。

 結局、マクナマラはベトナム戦争を拡大させたのはジョンソンだったと語っている。ベトナムからのアメリカ軍を撤退させる演説の準備をしていたマクナマラのもとに、ジョンソン大統領からの電話がかかってくる。映画の中では、この時の会話のテープが流れる(ホワイトハウスでの電話の録音って、ニクソンが最初かと思っていたけど違った)。撤退なんかせずに、もうすこし頑張ろうじゃないかみたいな電話だったと思う。国防長官が拒否できるわけがない、この1本の電話によって、アメリカはさらなるベトナム戦争の泥沼に引きずり込まれてしまった。

 しかし、その一方で、ジョンソン大統領にそうさせたさまざまな圧力があったのだろうと語っている。インタビュアーの「あなたはどの程度、ベトナム戦争の拡大の計画に責任を負っていると感じますか?あるいは、自分はコントロール不可能な出来事のひとつの歯車だったと感じていますか?」という質問に、マクナマラはただ一言「私は大統領に仕えようと努めた」とだけ答えている。マクナマラは、ジョンソン大統領とは膚が合わなかった。しかし、それでもケネディ亡き後、ジョンソンに仕え、最後は政権から解任された。それでも彼は人生で一番誇らしかった時は、ジョンソン大統領から自由勲章を授かった時だと答えている。政権を去る時に、ジョンソン大統領のスピーチに涙ぐむ彼の姿は印象的だ。

 マクナマラはベトナム戦争について当時の政権は間違っていたと言うが、個人的な謝罪はしていない。ジョンソン政権解任後、彼は反戦的言動をいっさいすることはなかった。今でも、自分から責任があったとは言わないが、人から責任があったと言われるときは否定はしないという。

 孤高の道を歩む、知的誠実さのカタマリのような老人という気がしないでもない。誰もがマクナマラのように生きなくてはならないとも思わない。今のアメリカで(日本でも)こうした人は希であろう。

 しかし、誰もそんなマクナマラを笑ったり、非難したりすることはできないはずだ。この老人は歴史の流れの中に一人で立ち、自分の犯した過ちを真正面から見続けている。そうしなければならないわけではないのに。しかし、彼自身が納得できないのであろう。その姿に今の時代の人が失ったものを思う。今のアメリカは、ベトナム戦争のことなど思い出したくもないし、あれはなかったことにしたいのだろう。

 『華氏911』とは異なり、見終わったあと、じわじわときいてくる静謐で真摯な、しかし本質的に今のアメリカのあり方を問いかけるいい作品だ。

 さて、ではわが国日本ではどうなのだろうか。なぜ日本ではこうしたドキュメンタリー映画が少ないのか。

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