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September 10, 2004

テロリストには厳罰を、ロシアはチェチェンから撤退を

 イギリスの"The Observer"に、ロシアのプーチン大統領が今回の学校テロ事件に対して、"President Vladimir Putin warned yesterday that terrorists had declared 'a full-scale war' on Russia."と述べたと書いてあった。おやっこれはどこかで聞いたセリフだなと思ったら、これは9.11の時のブッシュが言ったセリフだ。ようするに、テロとの戦いは戦争なんだ、というわけである。なんでもかんでも「戦争なんだ」と言っているような気がしないでもない。国家を専制的に統治する最良の手段は、平時において戦争状態を演出することなので、アメリカと同様、ロシアもまた国内を戦争状態にしておこうとするようだ。

 今回の事件では、ロシア側は徹底的に強硬な対テロ姿勢をとった。犯人側が求めたのは話し合いであったが、ロシア側はそれを拒絶し強行突入したようだ。その結果が、これほどの数の子供の犠牲だった。正確な死亡者数は今なおわからない。

 「テロリストとは交渉しない」というのは、よく聞くセリフであるが、人質を持つテロリストに対して、最初から「交渉しない」の一点張りでは解決する事件も解決しなくなる。もっとも、そもそも人質への被害を最小限度に留めて事態を収拾するという発想そのものが、以前のモスクワ劇場占拠事件を見てもロシアには欠落しているとしか思えない。

 ちなみに、テロに対して強硬姿勢をとるアメリカでも、さすがにここまで強硬なことをやると世論は黙っていない。アメリカに限らず、日本でもヨーロッパでもどこもそうだろう。そう考えると、ロシアという国は人権に対する考え方が欧米(および欧米の人権思想を導入した日本)とは根本的に違うのではないかと思う。このロシアとよく似ているのが中国で、ここもまた人権に対する考え方が根本的に違う。しかし、根本的に違うから、ロシア(や中国)はこれでいいんだとするのは、19世紀以前の話であって、今日の我々の時代ではそれでいいわけはない。

 そもそも、なにゆえロシアはチェチェンを侵略しているのだろうか。石油資源の確保のためとされているが、チェチェンには、どれだけの石油の埋蔵があるのか明確になっていない。大量の石油があるのかもしれないし、ないかもしれない。まだよくわかっていない。だとすると、なにゆえロシアはチェチェン侵略を行い、チェチェン人を大量殺戮しているのか。石油が出るかもしれないから、とりあえず侵略するということはある。ここで、はったと思いつくのが、チェチェン人を悪の民族とすることは、その悪の民族と戦うためにロシアは団結しなければならないと国内の統合の題目にすることができるということだ。まことにもって、大国にとって国内のちょっとした内乱ほど、国内引き締めの格好の理由付けになるものはない。

 テロは犯罪だと僕は思う。なんの関係もない子供たちが、なぜこのように殺されなくてはならないのかと思う。もちろん、同様になんの関係もないチェチェンの子供たちがロシア軍に殺戮されているということはある。しかし、だからやっていいわけはない。テロリストには言い分があるのならば、殺された子供たちの言い分はどうなるのか。

 今度の事件でテロリストは、学校を占拠するというショッキングな事件を起こして、自分たちの主張を世界に伝えたいと思ったのだろう。しかし、子供を人質にするということをしただけで、もう世の中の人々が話を聞いてくれるわけがない。世論の反感をかって、なにをしようというのだろうか。ロシア側はあらゆる手を使って、チェチェン独立に不利なイメージを作ろうとしている。これに対して、学校に爆弾と銃を持ち込んで子供を人質にとるなど愚の骨頂であろう。なにしろ相手は、仮にこっちが銃を撃っていなくても、あいつが銃を撃ったと虚偽の情報を流すことをやる連中なのだ。こうした相手では、単なる武力闘争では勝ち目はない。武力闘争に基づく独立運動は、21世紀のこの時代では大きなパワーを持つことがなくなってきたように思う。今の時代は、戦争の形態が変わりつつあるように、テロリズムもまた変わらなくてはならないのではないだろうか。そういえば、テロリズムの側からの新しい戦略論や情報論ってまだ出ていないように思う。

 そして、こうした事件が起こる背景への理解なくして、こうしたテロが今後も起こるのを防ぐことはできない。少なくとも、チェチェン民族独立によるテロを止める方法は、テロ犯罪者は厳罰に処すると共に、チェチェンからロシア軍を撤退させることだ。

 しかしながら、ではロシア側が「はいそうですか」と軍を撤退させることが可能かというと難しい。その理由のひとつとして、ロシアの一般大衆もまたロシアによるチェチェンへの侵略を支持しているということがあげられる。だからこそ、プーチンも好き勝手なことができる。もちろん、これはロシア軍がチェチェンでなにをしているのかということをメディアが自由に報道できないため、ロシアの一般大衆も「なんか、チェチェンってテロばかりで悪い連中なんだ」と思いこんでいるところがある。

 また、多少大げさに言うと、歴史的にロシア人は他民族の領土を一度取るとなかなか手放そうとはしないところがある。かりにロシア政府がチェチェンの独立を認めても、ロシア連邦の他の共和国がチェチェンが独立し強国になることを望まないこともある。このへん、ややこしい。

 さらに、ではロシア軍がチェチェンから撤退すれば、チェチェンはすぐにでも独立できるのかというと、チェチェン側にもそう簡単に解決できない問題が数多くある。例えば、国境をいざ決めようとするともめるし、チェチェン共和国内に住むロシア人をどうするのか。またモスクワなどロシア国内各地にあるチェチェン人共同体をどうするのかという問題もある。チェチェンには独立する権利はあるが、実際に独立するとなるとやっかいな問題を抱えることになり、それはチェチェンやロシア連邦の問題だけではなく国際社会の問題になるものもあるだろう(だから、チェチェンは独立しなくていいとは思わないが)。

 しかし少なくとも、チェチェン独立のことはひとまず横に置いておいて、まずテロをなくすためには、ロシア軍がチェチェンから撤退することが必要だ。ロシアの人々がそのことに気がつかない限り、プーチンがテロリストにいくら強硬な態度をとったところでテロはなくならない。そして、ロシアの人々がそれに気がつくということは、世界の人々がそれを強く望むということだ。だからこそ、日本人である僕たちはロシアという巨大な隣りの国のことについて考える意味がある。

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Comments

<<プーチンがテロリストにいくら強硬な態度をとったところでテロはなくならない。>>

じゃクリントン大統領と同じように何もしなければテロは無くなるの?

テロを撲滅するには、資金源を断つ、イスラム内での道徳の考えを変える、テロを行えば利益が無い環境を作るなどが有効なのでは?

イスラム過激派は新しい思想をこの10ー30年の間につくりあげたのですよね。最初にその思想を掲げたのがイラン革命のリーダー。フランスが亡命をゆるしてサポートした。イランに戻って宗教と政府と新しい思想が合体した。その成功を見た若者たちがイスラム各地でお金と武器と思想をまとめ上げる団体を作って、それが各地でのテロの基礎となったわけですよね。

資金源を断つ。思想は悪いと言える環境を作る。サポートしても利益がない。これはアイルランドで成功したんですよね。

マイク

Posted by: マイク | September 11, 2004 12:09 AM

真魚さんこんにちは。早速コメントしてみました。

マイクさんもこんにちは。blogデビューを果たしたばかりのホヤホヤ、kakuと申します。

>思想は悪いと言える環境を作る。<

ああ、何と気持ちがイイのでしょうか!こういう爽快さ、日本人では福沢諭吉以外に出会えません。

しかし、そういう思想は悪いと言える環境を作る…この日本でそれをやるためには、どうりゃあ良いのだと思われますか、この、情緒溢れるニッポンで。

Posted by: kaku | September 11, 2004 03:50 PM

遠山の金さんの再放送でもみんなに見てもらえれば、また日本も思想が悪ければ悪いと言える環境が強くなるのでは?

貧困が原因、他の大きな国が原因… いくら言い分けをなれべても、悪いものは悪い。悪は悪であるといわない限り、テロリストは存在続ける事ができるんですよね。過激派イスラムは自分たち以外は抹殺する必要があると思っている。一度この思想に洗脳されると、貧困や政府の政策が原因と言う人達はあくまでもツールとなるんですよね。

マイク

Posted by: マイク | September 11, 2004 09:50 PM

>>じゃクリントン大統領と同じように何もしなければテロは無くなるの?<<

ブッシュはアフガニスタンとイラクに戦争をしたけど、それでテロは無くなったの?


>>テロを撲滅するには、資金源を断つ、イスラム内での道徳の考えを変える、テロを行えば利益が無い環境を作るなどが有効なのでは?<<

イスラム内での道徳の考えを変えるって、それはアメリカの都合のいいように変えるってこと?それにもともとイスラム教でもテロリズムを容認しているのは過激グループだけであって、イスラム教そのものはテロリズム宗教ではないです。

>>思想は悪いと言える環境を作る<<

これは同意できません。反体制思想も反米思想もテロリズム思想もあったっていいんです。思想弾圧をするのですか?必要なのは、結果的にそうした思想を信奉する人を少なくさせるということであって、そうした思想そのものをなくすことではありません。


>>これはアイルランドで成功したんですよね。<<

北アイルランド和平はテロを取り締まるだけではなく、ブレアがアイルランドのアハーン首相と会談し、双方が和平への動きを働きかけたからできるようになったのですよ。

Posted by: 真魚 | September 12, 2004 03:55 AM

kakuさん、こんにちは。
どうぞ、これからもご贔屓に。
マイクのブログも(保守主義ですけど)よろしくです。(共和党の保守主義ですけど)(くどいか)(^_^;)

この日本でどうするかですか。僕はアメリカ依存の安全保障にその原因があると思います。国家の安全をアメリカ任せにしているから、市民社会を成立させ、維持させているものは本質的には法と公共意識であることがわかっていないのだと思います。でっ、いっそのこと在日米軍を半分ぐらいにして、自衛隊を国軍にして、平和な市民社会というのはある一定のリスクの上に成り立っているのだということを理解する必要があると思います。

Posted by: 真魚 | September 12, 2004 03:57 AM

Mike,

金さんは町奉行という幕府権力の末端の役職にいるからああしたことができる。水戸黄門も同じ。みんな幕府の権力が背後にある。しいて言えば、萬屋錦之介が演じていた一心太助が例として妥当であろう。一心太助もバックに家康の直参旗本の大久保彦左衛門がいたとも言えるが、あの当時大久保彦左衛門は幕閣の権力闘争から離れていて実質的政治権力は持っていなかった。それでも、なにしろ三河時代の家康を育ててきた老臣なので、隠居したとはいえ「天下のご意見番」を自称できた。って多くの人は錦之介の一心太助を知らないだろうけど。

テロは悪であるけど、テロの背景を考える必要はある。といってもアメリカの中東政策が悪いという意味じゃあなくて(悪いところもあるのだけれど)
例えば、中近東の諸国は教育に大きな問題がある。教育の内容を改善しない限り、過激に走る若者はあとをたたない。テロは悪だと言っているだけではダメ。

Posted by: 真魚 | September 12, 2004 03:59 AM

権力をもつ人が人のため、世間のために悪は悪と権力をもつものを正しく裁く。それが金さんや水戸黄門の良さなんですよね。”権力があるからできた”はあたりまえ。

悪は悪ってのはなぜここまでアピールがあるのでしょうか?エリートからみると、このような番組は”庶民”のもの。話す価値すらない。

まず、テロは悪といいきらなければ。テロの背景が云々といっていれば、テロを行う理由となる。

リベラルのエリート達は何時も一から良い・悪いを考えようとする。問題を理解してからどうするか考えようなんですよね。保守は過去を尊重して、最低限の判断は一から考えずにできる。悪いから変えようなんですよね。

マイク

Posted by: マイク | September 12, 2004 07:42 AM

悪は悪ってはっきり言えないからでしょう。
金さんや水戸黄門に共和党の悪事も裁いて欲しかった。

>>リベラルのエリート達は何時も一から良い・悪いを考えようとする。問題を理解してからどうするか考えようなんですよね。保守は過去を尊重して、最低限の判断は一から考えずにできる。悪いから変えようなんですよね。<<

これはリベラルと保守の違いで重要なところ。保守は共同体の規範や昔からの伝統や価値観に従おうとする。ここがリベラルには理解できない。リベラルはまず物事を考える。保守は過去に従おうとする。なぜ、無批判に過去に従えるのだろうか。なぜ過去が信頼できるのですか。中世の暗黒時代、封建時代がいいとでも言うのですか?

Posted by: 真魚 | September 12, 2004 09:19 PM

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