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September 29, 2004

ジョン・ケリーはブログを知らない

 我が論友マイクが9月26日の「CBS騒動はパジャマを着た人々の時代の始まりか」のコメントで、たいへん興味深い指摘をしているので、別エントリーとして書きたい。

 まず、イギリスの新聞"Independent"に、今回のCBS騒動のことでおもしろいコラムがあった。"Bush bloggers capture stealth media"(ブッシュのブロガーたちが見えないメディアを乗っ取った)と題するこのコラムは、もともとLiberalの独壇場だったメディアが、いまや保守派のメディア操作の場になりつつあることを指摘している。"stealth media"の"stealth"とは、辞書を引くと「人目を盗む, 人目をはばかる, ないしょの」とある。レーダーに捕捉できない飛行機をステルス機というが、その「ステルス」だ。これは大手の新聞やテレビといったマスメディアを「見えるメディア」、ローカル局のラジオやインターネットなどを「見えないメディア」としているのだろう。

"Very embarrassing for the Leviathan of CBS News, and now mainstream journalists everywhere are running scared of the amateur blogger sleuths."
(CBSのリヴァイアサンにとって困ったことになった。そして、今や主流のすべてのジャーナリストたちは、素人のブロガー探偵に戦々恐々とするようになった。)

 リヴァイアサンは、旧約聖書に登場するいくつもの頭をもった海の怪物のこと(八岐大蛇みたいなものか)。「巨大な存在」を表すときにしばしば比喩として用いられる。この場合は、巨大組織あるいは権威ある3大ネットワークのひとつであるCBSそのものの意味ではないかと思う。

 そして、こう続く。ここからがおもしろい。

"The real story, however, is not Rather, but the fact that Republicans have been so effective at dominating the "blogsphere". The Bush/Cheney headquarters have a team scouring the blogsites for rumours about Kerry. They can instantly marshal hundreds of sympathetic bloggers to knock down attacks on Bush. The blogger who led the charge against Rather was no grungy student or the like but turned out to be a 46-year-old corporate lawyer in Atlanta. It's very reminiscent of 2000, when the Republicans dominated talk-radio, the stealth medium of the last election."
(しかしながら、本当の話は、ラザー氏のことではない。私が述べたいことは、共和党はより効果的にブログ世界を支配しているという事実だ。ブッシュとチェイニーの政権首脳部は、ジョン・ケリーについてのうわさが書かれているブログを探し回るチームを持っている。彼らは、ブッシュに対する批判的な書き込みを発見したら、そくざにボコボコにするために、数百の同情的なブロガーを召集させることができる。今回のCBS騒動で、ラザー氏への非難を導いたブロガーはみすぼらしいなりをした学生やそのたぐいの輩ではない。れっきとしたアトランタの46歳の企業弁護士だったことが判明している。このことは、2000年の大統領選挙の時のことを思い出させる。あの時も、共和党はラジオ番組、見えないメディアを乗っ取っていた。)

 当然のことながら、マスメディアはLiberalが支配しているとも言えるので、それに対抗するために、保守はマスではないメディア、つまり"stealth media"に活動の場を求めざる得ない。そして、今日、マスメディアは力を失いつつあり、小さなメディアが大きなパワーを持ちつつある。このメディアの力関係の逆転と、保守とLiberalの力関係の逆転は関連があると僕は考える。

 そこで、マイクの次の質問について考えたい。

>>主流のメディアは刺激の強いテレビや新聞(百聞は一見にしかずのメディアですよね。)を使ってこれまで人々の考えをコントロールしてきた。ネットやラジオのように、探さないと見つからないメディアがなぜ重要性を帯びてきたのかをLiberalsは考えないといけないのでは?<<

 これはたいへん重要なことなので、後日、くわしく書こうと思っているけど、とりあえず今、僕はこう考える。

 新聞が一般大衆に広まったのは19世紀末、テレビが普及したのは1960年代、つまり19世紀末から1960年代まで、ウッドロー・ウイルソンからケネディ/ジョンソンの時代までは、Liberalが大きな力を持っていた。アメリカの政策そのものがLiberalだったし、市民もまたLiberalな政策を求めていた。FDR(フランクリン・デラノ・ルーズベルトの略称記号。ちなみに、アメリカ人との会話では「FDR」で十分意味が通じる)のニューディール政策などがそう。だから、メディアもみんなLiberalだった。

 JFK(いわずと知れた、ジョン・フィッツジェラルド・ケネディの略称記号)時代の保守は、キューバにカストロ政権が樹立されたことと、アジアでの共産主義の拡大に反対を唱えている人たちだった。反カストロ、反ホーチーミン、反毛沢東、そして反フルシチョフの人々だった。彼らはジョンソンにアメリカがベトナム戦争に本格的に介入するようにさせたのだが、結果としてベトナム戦争は泥沼になる。そこで、保守はニクソンを支持するが、最終的にキューバのカストロ政権は確定的なものになり、ベトナムからは敗退、さらにニクソンは中国を承認した。一見、保守の希望は敗れたかのように見える。しかし、そうではなかった。

 ここで重要なことは、ジョンソンの時代に、アメリカ市民の多くはLiberalに幻滅したということだ。ジョンソン政権で、FDR以来のLiberalは破綻したのだと思う。Liberalの政策では、国内の道徳は荒廃し、福祉政策はいきづまり、共産主義の拡大を防ぐことができないことを知ったLiberalの知識人が共和党支持に変わっていった。何度も強調するけど、ここがたいへん重要なポイントだ。レーガンによる保守主義の飛躍は結果であって、重要なのは、ジョンソンの時代にLiberalは破綻したのだということだ。このことを、もっと考えなくてはならないと思う。ここで保守主義は大きく変わった。保守主義はたんなる反共右翼勢力ではなく、アメリカ民衆の声になったのだと思う。

 これに関連して重要なことは、マイクが以前言っていたように、元々、民主党支持の地盤だった南部が、なぜ民主党から離れていったのかということだ。これをもっと考えなくてはならない。東部のマサチューセッツにいるテッド・ケネディとジョン・ケリーはこのことの意味を理解していない。

 1990年代にインターネットが普及し始めた時、Liberalの知識人たちは、これで一般市民も政治的な発言ができるようになって、(Liberalな)民主主義が大きく前進すると考えていた。しかし、実際に大きく力を伸ばしてきたのは保守主義だった。

 アメリカ人なら誰もがLiberalだろうと思っているのは、Liberalだけと、Liberalなメディアの影響を受けている日本人ぐらいだ。日本人がそうであるように、アメリカ人も保守的な価値観を持っている人は多い。それらの人々が、商業Liberalが支配するビック・メディアに対抗して、ラジオやインターネットといったスモール・メディアを使って発言し交流している。そして、そのパワーは着実に大きくなっている。10年前、アル・ゴアが「情報スーパーハイウェイ構想」を提示した時、まさかこうした世の中になろうとはLiberalの知識人たちは誰も予測できなかった。アルビン・トフラーも書いていない。僕だってそう。パーソナル・コンピュータとインターネットの出現で、1960年代のカウンター・カルチャーが復活すると本気で信じていた。(実は今でも、ちょっとだけ心のどこかでは、まだ信じているのだけど。)

 今、起きている現象は、それは間違いだったということだ。ジョージ・W・ブッシュ政権という、いわば行き過ぎた保守主義の政権を生み出したのは、Liberalがこの間違いに気がついていなかったからだったと十分言える。

TIME,Sep 27.に書いてあるように、
some Kerry advisers think he has missed an opportunity to rally voters to his cause using the Net. "I don't think this campaign really understands the new technology." says one. "Yes, they raised money with it, but they don't see it as an organizational tool." The reason, he says, is that the team still steers by the stars of the New York Times and the TV networks. Senior adviser Mike McCurry read the Daily Kos and a few other blogs, but most Kerry aides don't and instead rely on one staff member to provide an overnight summary. The Internat is not their medium. "It's not where they live. It's not how they talk to each other." says the adviser. "The Kerry camp hasn't moved. It's where campaigns were 20 years ago.

 ようするに、民主党は新しいメディアを資金集めの道具としてしか使えない。彼らは、the Daily Kosのような有名Liberal系ブログを読むこともせず、あいも変わらずthe New York TimesやCBSとかABCテレビなどで世の中のことを知ろうとしている。インターネットを政治的ツールとして使いこなしていない。20年前の選挙と同じことをやっているのだ。これに対して、共和党はブログを浮動票投票者へのアピールなどに有効に活用している。

 民主党は、いつまでも1960年代に破綻したFDRやJFKの理想を追いかけていないで、まずアメリカ社会の現状と新しいメディア"stealth media"の意味を理解すべきだ。そうして、初めて保守主義に対して意味のある反論を行うことができるのだと思う。

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Comments

<<民主党は、いつまでも1960年代に破綻したFDRやJFKの理想を追いかけていないで、まずアメリカ社会の現状と新しいメディア"stealth media"の意味を理解すべきだ。そうして、初めて保守主義に対して意味のある反論を行うことができるのだと思う。>>

それ以前にメディアとはなにかを理解してもらわないと。今、Journalism Schoolに入っている生徒になぜジャーナリストになりたいかと聞くと、ほとんどが”より良い世界を作るため”と答える。

ジャーナリストってより良い世界を作るための仕事なんでしょうか?それは政治家や行動家の仕事じゃないのですか?

ジャーナリストとは見たことを正確に沢山の人に情報を伝えるのが仕事ではないのでしょうか?自分が思う理想郷を目指すために加工した情報を流すことが今のジャーナリストの定義となっているのでは?この加工がLiberalな加工なため、メディアの主流がLiberalな傾きを…

新しいメディアが主流のメディアの間違いを見つけたりすることが”Stealth Media”などと解釈されるのでは問題ですよね。

まずは基礎に忠実な仕事をしていただきたいものです。ニュースは社説ではありません。

マイク

Posted by: マイク | September 30, 2004 at 03:55 PM

確かに、ジャーナリストの仕事は「見たことを正確に他者に伝えること」であるのは事実。

しかしながら、なにをどう見るかは主観的なことだし、個人の心情は十分入る。だから、それをそのまま流さないように社内にチェック・システムがある。それにマスコミも営利企業である以上、会社の方針もあるでしょう。

「見たことを正確に他者に伝える」という仕事であっても、社会正義を追及するという職業倫理観を持つのは悪いことではない。「見たこと」というが、そもそも権力が「見えない」ようにさせているものを、ジャーナリストは「見ようとする」ことも仕事なのだから、ただ単に「見たことを正確に他者に伝えること」だけではいけないでしょう。

「見えないものを見て、それを正確に他者に伝えること」も必要なのでは。

Posted by: 真魚 | September 30, 2004 at 09:53 PM

<<「見えないものを見て、それを正確に他者に伝えること」>>

ジャーナリストが見えないものを見る?幻想??妄想??

一般の人が見えないものを見つけてきて、それに明かりを当てる。これは理解できますよ。でも見えないものを見る?これはおかしいのでは?

リベラルの人は良く問題の無いところに問題をみいだして政府に問題の解決を即すわけですよね?これと同じですか?

Investigative Reportingで証拠をさがして、問題を公にするのはジャーナリストの手段の一つだとおもうのですが、でっち上げジャーナリズムは問題でしょ?

昨日また、CBSが。以前ここでも話題になった徴兵制度の復活がすぐにでも始まるかのように。”秘密のプラン”が大統領にあると。ラダーさんも選挙前の民主党担ぎもほどほどに。

マイク

Posted by: マイク | October 01, 2004 at 12:42 PM

一般の人どころか、政府の役人でも見えないものを見るように勤めるのがジャーナリズムでしょう。見えるものだけを見る、それを正しく報道する、これだけでウォーターゲート事件は明るみになったでしょうか。ボブ・ウッドワードとカール・バーンスタインは、それ以上のことを行ったから報道ができたのでは。そして、ニューヨークタイムズ社は彼らを前面的に支持して、ニクソン政権からの圧力を跳ね返したのですよ。社主は、ウッドワードとバーンスタインが調査しているものが本当に真実かどうかは最初はわからなかった。しかしそれでも、彼らを支持したわけです。

ちなみに、オリバー・ストーンの映画を見て、私はニクソンを高く評価するようになりました。彼こそ、良くも悪くも保守主義の政治家です。貧しい家庭の生まれです。苦労した人生を送っています。それに対してブッシュは名門の生まれで楽をしてきました。ブッシュは、ネオコンや間違った保守主義者たちに都合よく利用されているだけです。

>>リベラルの人は良く問題の無いところに問題をみいだして政府に問題の解決を即すわけですよね?<<

保守主義というのは、共和党政府がやることはなんでも問題ないと言います。なにが問題あると言うのかというと、民主党の福祉政策や犯罪者対策、外交政策だと。

そして、道徳が腐敗しているとか、同性愛は反対とか。それらは個人の内面のことですよね。それこそ問題はまったくないのに問題があると言うのが保守なんです。

Posted by: 真魚 | October 02, 2004 at 12:51 AM

<<保守主義というのは、共和党政府がやることはなんでも問題ないと言います。>>

またまた。根拠を見せていただけませんか?保守思想の中ではブッシュがやっている政策に非常に批判的な人は沢山いますよ。良ければURLをだしますが。

リベラルの人達はなぜか根拠の無いことをベースに話をはじめますよね。

<<なにが問題あると言うのかというと、民主党の福祉政策や犯罪者対策、外交政策だと。>>

共和党のおかげで福祉政策はかわりアメリカでは自分の責任を取りながらの福祉が育っています。犯罪者対策もNYCを見ても同じ事が。悪い事をする人を罰する。どこが悪いのかな?外交政策もクリントン時代の北朝鮮対策と今の6者会談。どちらがアジアに安全をもたらすと思いますか?ケリー氏はクリントン時代の体制が良いと言っていますが…

<<そして、道徳が腐敗しているとか、同性愛は反対とか。それらは個人の内面のことですよね。それこそ問題はまったくないのに問題があると言うのが保守なんです。>>

道徳が腐敗している世界に住みたいですか?昔から日本の良いところは小学校の頃から”道徳”言う授業があること。良いこと悪いことについて考えさせられるわけですよね。

保守思想の中で”同性愛”反対を唱えている人は確かにいますが、政治的な問題として、同性愛同士の結婚を普通の結婚と認める事を司法手段で決めてはならない。なぜなら司法は民主主義を無視した形で法律を作るべきではないからです。民主主義の過程を通じて同性愛結婚が認められればそれはみんなで決めた事ですからOKなんですよね。

リベラルな人は自分の考えが民衆からサポートされていなければ、民主主義を無視してもよいと。都合が良い時だけの民主主義者なんですよね。共産党の政治体制と同じように…

マイク

Posted by: マイク | October 03, 2004 at 10:03 PM

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