January 14, 2017

続・釜山の慰安婦像設置

 この話しかないのかとも思うが、韓国・釜山の日本総領事館前に置かれた従軍慰安婦被害を象徴する少女像について、さらに考えたい。

 この騒動は、日本と韓国の歴史学的にはなんの意味もない。江華島事件や甲午農民戦争(いわゆる東学党の乱)や乙未事変等々、朝鮮の近代史において、どう考えても日本は「正しくない」ことをやっているのであるが、それらについては今の日韓の間で問われることはなく、従軍慰安婦なるものだけが騒がれている。本来、問うべきことをこの二つの国はやっていない、というか、やろうとする意思すらない。

 日韓ともに、それほど慰安婦像にこだわるのであるのならば、いっそのこと、日韓で首脳会談する席上に、日本の総理大臣と韓国の大統領の間に、もうひとつ席を作って、ここに慰安婦像を置くことにするようにしたらどうであろうか。慰安婦像は、日本にとっては過去の歴史の反省として、韓国にとっては国がしっかりしていなくては自国の民は不幸になるということの戒めとして置くべきだ。慰安婦像の視線は、日本に対して向けられるものであると同時に、韓国自身にとっても向けられるものなのである。

 日本は慰安婦以外にも、様々な労働を膨大な数の朝鮮の人々に強制的に課してきた。慰安婦だけのことで、これほどもめるのであるのならば、それらモロモロのことは一体どうなるのであろうかと思うが、なぜか慰安婦以外を政治問題にするつもりはないようである。ようするに、歴史認識がどうこうなのではなく、政治的に騒ぎたいということなのであろう。

 朴正煕政権下での1965年の日韓基本条約は、当然のことながら国民の意思は無視して締結された。また、河野談話においてもアジア女性基金においても、日本側が提起し、韓国に対して行ったことであり、日韓の双方が国民感情も含めて協議によって行われたことではない。2015年末の慰安婦問題に関する日韓合意も政府主導で短時間で締結された。つまり、このことについて、韓国の世論がまともに顧みられたことはないのである。よって、後になってもめている。韓国政府は、民主主義である以上、国民感情を無視することはできず、国が決めたことだからで慰安婦像を撤去することはできない状況になっている。

 本来、政治問題にすべきものではないことを政治問題にしているので、話がどんどんこじれているのである。例えば、日本は在日韓国・朝鮮人の軍人と軍属への支払いについて、韓国籍でない朝鮮籍の人に払わないのは不公平だとし、在日韓国・朝鮮人の軍人や軍属であった人々、遺族に特別給付金を支払っている。しかしながら、慰安婦への対応については、慰安婦問題がこれほどの大きな政治問題になってしまったので、表だったことができないようになってしまっている。

 13日の朝鮮日報日本語版にはこうある。

「旧日本軍の慰安婦問題をめぐる2015年の韓日合意に対し、韓国次期大統領選の有力候補のほとんどが再協議が必要との立場を取っていることが分かった。両国は同年12月の合意で「最終的かつ不可逆的な解決」であることを確認したが、大統領が誰であれ、次期政権では再協議問題が韓日外交の争点になる公算が大きくなった。」

 では、どのようなものにしようとしているのであろうか。

 同じく朝鮮日報日本語版にパク・チョルヒ・ソウル大学国際大学院長がこのようなコラムを寄稿している。 

「韓国の市民団体は、日本の誠意のない謝罪に抗議する意味で釜山の日本総領事館前に少女像を設置したと言うが、在外公館の「安寧と威厳」を守るよう定めたウィーン条約に無視するこうした造形物の設置に国際社会は批判的だ。「世論が好意的なら国際条約も無視できる」という主張は、私たちの間でしか通用しない。政治家たちは、こうした感性に容易に便乗してしまう。万が一、日本と再交渉できることになったとしても、既存の合意よりも良い結果を得られなければ次の政権に重荷になるだろう。合意当時に生存していた46人の慰安婦被害者のうち、34人がすでに合意を受け入れたことも、再交渉論者たちには負担だ。」

 しかし、これを韓国の国民感情が理解するであろうか。日韓関係とは、双方とも、双方の国の国民感情が大きく事態を左右する。そういうものであるようである。

 さらに言えば、イギリスのEU離脱にせよ、アメリカでのトランプの選出にせよ、その国の国民感情が、これまで以上に政治を左右するものになっていると言える。そういう時代なのであろう。

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January 07, 2017

釜山の慰安婦像設置

 去年の年末に、韓国の釜山の日本総領事館前に従軍慰安婦像が設置されるということがあり、年明けの日韓関係はもめるであろうなと思っていたが、昨日の6日、「菅義偉官房長官は6日の記者会見で、韓国・釜山での慰安婦像設置を受け、「極めて遺憾だ」として駐韓日本大使の一時帰国など4項目の対抗措置を発表した」という。

 4項目の対抗措置とは、「(1)在釜山総領事館職員による釜山市関連行事への参加見合わせ(2)長嶺安政・駐韓国大使および森本康敬・在釜山総領事の一時帰国(3)日韓通貨交換(スワップ)の取り決めの協議の中断(4)日韓ハイレベル経済協議の延期。その措置を採る」である。

 日韓通貨交換(スワップ)の取り決めの協議の中断については、韓国の中央日報日本語版によると、「宋寅昌(ソン・インチャン)企画財政部国際経済管理官(次官補)は「現在保有中の通貨スワップが終了したわけではないため大きな影響はない」とし「通貨スワップ満期が昨年終了したマレーシアと事実上延長に合意したほか、アラブ首長国連邦(UAE)とも延長の協議をしていて、通貨スワップ規模はまた増えるだろう」と述べた。 」という。ようするに、韓国側は、日本が日韓通貨交換の取り決め協議のを中断してもなんとかなるということのである。

 注目すべきことは、「長嶺安政・駐韓国大使および森本康敬・在釜山総領事の一時帰国」だろう。駐韓国大使が一次帰国したことは、2012年に李明博大統領が竹島(独島)を訪れたことへの抗議として行われている。今回、一次帰国をしたとして、では駐韓国大使が韓国に戻るのはどうするのだろうかということだ。戻るとなると韓国側は「日本側の抗議は収まった」と思うであろう。では、日本側は韓国側のなにをもって「日本側の抗議は収まった」とするのであろうか。

 その一方で、韓国の朝鮮日報日本語版によると「韓国の政府当局者は日本政府の取った措置について、「少女像に関する(日本)国内の世論を意識した側面がある」として、「象徴的な面が強く、実質的に両国関係に影響を与えるものではない」との見方を示した。韓国政府は長嶺大使の帰国も長期間にはならないとみている。」とのことだ。この見方は興味深い。

 北朝鮮の核実験やミサイル発射などの行為について、日米韓が連携する必要があり、そうそう日韓関係が不和になっては韓国も日本も、そしてなによりもアメリカが困るということになる。実際のところ、北朝鮮への対応については、日韓はこれまで通りの連携を保っていくとのことである。

 経済関係も同様であり、先日、韓国で公開されたアニメ映画「君の名は。」は初日興行収入ランキングで1位を獲得し、初日の興行収入は1億円を超えたとのことである。日本映画が韓国の映画ランキングで1位を獲得するのは、2004年の「ハウルの動く城」以来、13年ぶりであるという。つまり、実質的な面においては日韓関係は従来通りで変わることはないということだ。日本の総領事館前に民間人が何をどう建てようとも、実質的に不利益を及ぼすものではない。

 では、なにが「不和」になるのかと言えば、例によって例のごとく日韓の国民感情が「不和」になる(というか、「不和」であり続けるというか)ということである。

 日韓の慰安婦合意では、日本側は慰安婦像の撤去を韓国側は約束したと思っているが、韓国側の認識では関連団体との協議などによって撤去するように努力するという程度のものである。慰安婦合意で、この点を曖昧にしたのは曖昧にしなればならなかったということがある。そして、曖昧であったからこそ、今になって問題が発生している。日韓の双方、特に韓国政府は慰安婦の方々やその支援団体への承認なしに、日本との慰安婦合意を進めたということもある。次期大統領選挙の候補者たちは、朴槿恵政権での慰安婦合意を破棄して、慰安婦についての日本との交渉をやり直す考えであるという。

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December 31, 2016

2016年を振り返る

 イギリスのEU離脱にせよ、アメリカの大統領選挙でのトランプの当選にせよ、この1年の国際社会は民意と国家や政治の間の分裂が大きく現れた1年であった。

 本来、民主主義の政治は民意の反映であることはタテマエであることは、これまでもわかっていたことだ。しかし、6月のイギリスのEU離脱や、11月アメリカの大統領選挙でのトランプの当選、あるいは12月の韓国の朴槿恵大統領の弾劾訴追などを見てもわかるように、民意と政治の間の隔たりがあまりにも大きくなり、有権者が国の政治に反対の票を投じたということである。

 その一方、今月も19日に、ドイツのベルリンの市場に大型トラックが突っ込んだテロ事件が起きた。テロをする側には、欧米のイスラムへの介入に遠い原因があるのかもしれないが、市民の側からすれば、自分たちに民意によって国がイスラムに介入してきたのではない。国の政策決定者たちが決めたことだ。市民からすれば、イスラムからテロを受ける理由はないのである。

 この1年を振り返ると、世界は加速度的に「悪い方」へ向かっていると思わざるを得ない。一部の特権階級、富裕層だけが利益を得る今の社会の姿はまったく改善されることはなく、格差は広がり続け、その反面、一般市民はテロの標的になるという、なんとも言えない閉塞感だけがある世界になってしまった。

 トランプ次期大統領のアメリカは、ますます停滞していくであろう。トランプの言っていることのほとんどは実行不可能なことであり、例えば「イスラム教徒の入国禁止」など不可能だ。核兵器の増強を言っているが、そんなお金はどこにもない。それでいて、法人税の引き下げや所得減税、相続税廃止などを言っているのだから矛盾している。来年は、アメリカの政治はますます混乱することになる。今回の大統領選挙で明らかになったように、もはや大手メディアは信頼できないものになっているので、混乱はさらに拍車がかかることになる。2016年は、パックス・アメリカーナが終わった年になるだろう。

 EU諸国でも右派の政治勢力はさらに伸びていくだろう。もともと、EUは「ヨーロッパ統合」という理念の上に成り立っている。その理念を誰も信じないようになれば、これは崩壊していく。そして、今起きているのは理念や理想といったものへの信頼や希望ではなく、国粋主義や排他主義といった感情と軍事力という力への確信である。

 アメリカやEUの低迷に対して、ロシアはこれまで以上に大きく台頭してくるであろう。特に欧米に変わり、ロシアの中東への介入にさらなる注目をしなくてはならない。そもそも、ロシアという国と中東は歴史的に深い関わりがある。ロシアはソビエトという枠が外れ、本来の帝政ロシアそのものに戻ろうとしている。ロシアは、国際関係における軍事力の優位性を今でも主張し実行している一方で、巧みな外交力も持つ国である。今後、ロシアの動きは重要である。

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